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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Daily Life 初春や白井と合流した美琴達は佐天の部屋にいる。 クリスマスツリーの飾り付けも終え、夕食の料理をテーブルに並べていく。 キッチンでは初春が最後のポテトサラダを盛り付けている。他3人は席について初春待ちだ。 「ところでお姉様はどのようなものをプレゼントに?」 「アンタねぇ、それ言ったら楽しみがなくなるでしょうが」 美琴は呆れたように溜息をつく。 「そうですよ、白井さん。きっと物凄く素晴らしいプレゼントを用意してくれてますよ。ね、美琴さん?」 「あははは。そんなに期待されると渡しにくいんだけど……」 (さっきはあんなに照れながら呼んできたのに) 美琴は佐天の適応力に驚きつつ、その期待の満ちた目線から逃げるように顔を背ける。 その背けた視界には、両手でポテトサラダが山盛りにされた皿を持つ初春が入る。 「あ、れ?」 美琴は驚いたような顔で初春を見ている。さらに盛られたポテトサラダが『残ったジャガイモを全部使いましたよ』なんていうくらいの大量だからではない。 初春の顔が青ざめていたからだ。まるで怖いものを見たかのように。バイオリンを教えて貰っているところを見られたときのように。 美琴はゆっくりと初春の目線をたどる。白井のいるであろう空間には、壮絶な顔の空間移動能力者がいた。 「お、お姉様?」 「どうしたのよ、黒子?」 「いつからなのですか……」 「な、なにが?」 じとーっとした目で白井は美琴の顔を覗き込む。 「いつの間に上条さんから佐天さんにお乗換えに?」 「なにを勘違いしてんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 美琴はその右手を真っ直ぐと突き出し、白井の顔面へと突き刺す。うげ、と言い残して白井は後ろにバタンと倒れる。 「なにがあったんですか、御坂さん?」 初春は持っていたポテトサラダをテーブルにドンと置く。 美琴が白井に鉄槌を下すのはよく見る光景である。スルーしても良いのだが、今回は違った。いつもは『からかう側』の佐天が顔を赤くしているのだ。 上条の告白シーンを除いたときに佐天が思っていたより乙女であることを知ったので、美琴の惚気話で盛り上がったのだろうと思ったのだが。 「いやね、私が当麻から涙子に乗り換えたんじゃないか、って話で」 「…………佐天さん」 「どしたの、初春?」 目を丸くしたままの初春に佐天は首を傾げる。 「いつから御坂さんに乗り換えたんですかっ!」 「だから乗り換えてないって!っていうか、誰から乗り換えたっていうのよ」 「私から!花が無くても好きって言ってくれたじゃないですか!」 準備は出来たのに、パーティが開かれるのにはまだ時間がかかりそうだ。 『必要悪の教会』のパーティが英国式教会では、名目上クリスマスパーティと銘打った宴会が繰り広げられている。 参加者の殆どが天草式のメンバーであり、上条的には『ぶっちゃけわざわざ集まる意味あんのか?』と思えるようなものであった。 上条は周りを確認する。さっきまで隣にいた筈のインデックスは『食べ物がいっぱいあるんだよ』と言って走って行った。 料理の置いてあるテーブルは今頃戦場となっているであろう。確認したくもない。 と言っても、教会の至るところで色んな人が盛り上がっていて、酒池肉林状態になりつつある。 「あー、みんな好きなのね、お祭りごと」 イギリスでの集団晩餐のときのように、1人取り残され気味の上条は食事するのも諦める。 「あ、もしもし………か、上条、さん」 「うん?」 後ろから声をかけられ振り返る。そこにいたのは―― 「うおぉっ!?せ、精霊さんっっ!」 「そ、そんなに驚かなくてもっ」 あわわわわと口をぱくぱくさせる大精霊がいた。 「どう、ですか?」 『大精霊』と化した五和は、その場をくるりと回ってみせる。 チラメイドという名のはずであるが、チラどころではなく刺激は強い。 胸元は大きく開いているというか見えまくっているし、スカートも短い。なおかつ上下セパレートによるへそ出しである。 「なんつーか、思ってたよりエロいな」 上条はできるだけ見ないように努力するも、どうしても目線がよからぬところにいってしまう。 (思ってたよりも、でかい!) 何がでかいと思ったのは上条にしか分からない。 「私の部下をそんな目で見ないでください、上条当麻」 後ろから声が飛んでくる。神裂火織のものだ。 上条の脳裏に堕天使が降臨する。数時間前にもフラッシュバックして悩まされた堕天使にモノ申すべく、勢いよく振り返る。 「神裂!テメェまでエロい格好してんじゃねぇ!―――って、あれ?」 神裂はいつも通りの恰好であった。 「んなっ!?人聞きの悪い!どこがエロだというのですか」 「うううっせぇ!その姿も十分エロいと言ってるんです。あー、もう堕天使エロメイドかと思って焦りましたよ」 上条は神裂の『相変わらずのエロさ』に半分安堵し、『いつも以上のエロさ』出なかったことに半分残念に思う。 「か、上条当麻、何を残念そうな顔をしてるんですか!今すぐ外に出なさいっ。その記憶を吹き飛ばしてあげましょう」 「神裂さん、殺す気ですか?」 腰に付けた『七天七刀』を手に持つと、聖人の腕力をいかんなく発揮して上条の襟元を掴みあげる。 「ちょっと待てって、神裂!悪かった!エロメイド姿のお前を想像した上条さんが悪かったです!許してぇぇっ」 「黙りなさい!!なに、以前のように傷だらけにはしません。『唯閃』は一撃必殺ですから」 「うわぁぁっ、マジで殺す気ですよ、この人!い、五和さん、見てないで助けてください!」 「え、あ、女教皇様!待ってくださぁぁぁいっ」 その後、教会の外では大精霊と聖人の戦いがあったとかなかったとか。 パーティも終わりの時刻を迎え、美琴は1人で歩いている。 あれから佐天との仲を問い詰められ、上条との一件の話になって、初春の事も名前で呼ぶようになって。 ようやくパーティが始まったかと思えば、メインのプレゼント交換では大騒ぎであった。 というのも、初春に渡ったプレゼントが美琴も見ていたあの紐パンだったのだ。 犯人は白井で、本人いわく『お姉様に渡ることを望んでいましたのに』だそうだ。 当然、初春は『酷いと思いませんか、るるる涙子さん?』と言っていたが、佐天に『ごめん、私もそれにしようかと思ったよ。もちろん、飾利用に!』なんて言うのだ。 『実は私も』なんてカミングアウトなんて出来るわけもなく、少し後ろめたい気持ちで初春を慰めることになり。 そんな初春の頭を撫でたら白井が暴走を始めるわ、佐天が羨むわで正直、疲れるものだった。 ちなみに、美琴の貰ったプレゼントは初春からのブランケットだった。 話を戻そう。 美琴は1人で歩いている。初春は佐天の家に泊まるらしいが、普通なら白井と共に寮に戻るべきところだ。 美琴の目指す先は、上条の寮。 結局は全員に吐かされた上条との一件の解決するべく、美琴は単身で乗り込もうとしていたのだった。 十字教のパーティが何時に終わるかは分からなかったが、美琴は上条が帰ってくるまで待つつもりであった。 決心の揺れないうちに聞いておきたかった。疑念が膨らまないうちに話して欲しかった。 どこか思いつめたような表情で歩いていると、天の悪戯なのか、見知ったツンツン頭と白いシスターの後姿を発見する。 美琴はぷらぷらと歩いている2人の方に駆けていくと、大きく叫ぶ。 「待ちなさい、当麻、インデックス!」 振り返る。上条はギョっとした顔で。インデックスは友達を見つけたような人懐っこい顔で。 「あ、みことー。メリークリスマスなんだよ」 「メリークリスマス、インデックス。その様子だとパーティは楽しかったみたいね」 七面鳥がおいしかったんだよ、とじゃれてくるインデックスを撫でながら、美琴はバツの悪そうな上条に目をやる。 「何か用かよ」 上条は目線を合わせずにぶっきらぼうに問いかける。 「別にアンタに用はないわ。私はインデックスに話があってきたの」 美琴は驚いている上条に構わず、インデックスの手を取る。 上条からは恐らく『本当の理由』を聞き出せないであろう。ならば、隣の同居人に聞いてみよう、というわけだ。 「わたしに、話?」 「そ。ちょっと付き合いなさい」 「むむむ。その様子からみると重要な話なんだね。わかった」 インデックスは頷くと、美琴の手を握り返す。 「とうまは先に帰ってて」 「ど、どういうことだよ美琴」 「後で全部話すから、先に帰ってて。お願い」 美琴はそう言い残すとインデックスの手を引いて行った。 上条にはそんな美琴を呼びとめることも、その背中に声をかけることさえ出来なかった。 (あんな目されたら、なんも言えねぇじゃねぇか) 恐らくは明日の件であろう。上条は配慮の足りなかった自分を責める。美琴にあんな顔をさせてしまった自分自身を。 どれくらいそうしていただろうか。 上条はふと我に返ると時計を見る。すでに帰って来てから1時間は経っていた。 言われた通り寮まで帰ってきた後、ベッドで横になりながら考え込んでいた。自分と美琴の関係について。 (俺はアイツの事を、全然わかってねぇんだよな) 上条は悩む。美琴の心を分かってやれない事に苦悩する。 (泣かせねぇとか守るとか言いながら、あんなに悩ませといてよ) あれから2人とも帰ってくる様子はない。連絡すら来ない。 何も教えられずに待つことがこんなに辛いなんて、と上条は思う。 「情けねぇな」 上条の言葉は静かな部屋の壁に吸い込まれるように消えた。 こんこん。 静かにしていなかったら気付かないくらいの小さな音で、扉がノックされる。 上条は自分でも驚くくらいの速度で跳ね起きると玄関に向かうと、遠慮がちに扉が開き、俯いた美琴が入ってくる。 美琴1人。インデックスの姿はない。 上条がその事を聞こうとした瞬間、ポケットに入れっぱなしだった携帯が震える。 インデックスからのメール。『きょうはきょうかいでとまるから、ふたりでゆっくりはなしあってほしいんだよ』 まだ変換もできない稚拙なメールであったが、文面異常に伝わるものがあった。 「………とりあえず、上がれよ」 「うん」 さっき別れた時のぎこちない空気のまま部屋の中に移動する。 「なんか飲むか?」 「ううん。いいから、こっち来て」 キッチンに向かおうとする上条に、美琴は座るよう促す。 初めて来たときのように、ガラステーブルに向かい合う。 「話があるの」 「俺にもある。お前に確認したいことが。でも、先に話しちまってくれ。全部聞いてからにする」 上条は真っ直ぐに美琴を見つめる。 じゃぁ、と呟いて美琴は小さく息を吐いて続ける。 「どうして、黙ってたの?」 「…………な、なんの話だよ」 「明日と、今日の話よ」 キッとした目で真っ直ぐと見据えてくる美琴に、上条は目線を合わさられない。 「明日の事は確かに言ってねぇけど、今日の事は教会に行ってるって言っただろ」 「それだけじゃないでしょ。今更、何を隠そうとしてるのよ?全部、インデックスが話してくれたわよ」 上条は顔をしかめ、下唇を噛む。 「もう1度聞くわ。どうして?インデックスが明日の朝で帰っちゃう事黙ってたの?」 「………それは」 「私の顔を見て話して」 美琴は上条の両頬に手を当て、無理矢理に顔を向けさせる。上条は抵抗を試みるも、美琴の目は本気だった。 (言うしか、ないよな) 上条は小さく笑うと両頬に当てられている美琴の手をとる。美琴が少し驚いた顔をするが構わずに、話を始める。 「インデックスから帰るって話を聞いたのは、昨日の夜。お前に告白の返事をして、部屋まで帰ってきた後のことだ」 上条が帰ってきた後、ベッドの上にいたインデックスが涙ながらに話してくれたのだった。 実は以前から決まっていたこと、上条が悩んでいる間は言いたくなかったこと、分かれる前に上条に想いを告げたかったこと。 「お前に黙ってたのは………なんていうかな」 「遠慮してってわけ?」 「まぁ、そんなところかな」 上条はバツが悪そうに答える。何かを隠してる、美琴は考える。上条は本心を言いたがらない。 「嘘、ね」 「は?」 「嘘。アンタは私に遠慮したのかもしれないけど。家族であるインデックスとの問題に、私が首を突っ込むのを良しとしなかった。そうでしょ?」 「………」 上条は答えられない。美琴の言ったことが、寸分違わず自分の本心だったから。 (お見通しか) 上条は諦めたように肩をすくめてみせる。これから先も苦労しそうだな、と思いながら。 「そうだよ。俺はインデックスを家族だと思ってる。だから―――」 上条が全て言いきる前に、その言葉は中断された。美琴の右手が、上条の頬をはったから。 「アンタはっ!人の話には首を突っ込んでくるのにっ、なんで自分のときは話してくれないのよ」 「………美琴」 「私と『妹達』のときは無理矢理にでも入ってきたでしょう?」 美琴は泣いていた。そのことが上条の心に響く。赤くなった左頬よりも。 「それに、私は……インデックスの友達なの!親友なの!どうして、別れの一言もなしにサヨナラさせるつもりだったの?」 「………」 「今日だって、インデックスや、他の子達、英国に帰っちゃう人とのお別れ会だったんでしょ?」 「……ああ」 名目上は『クリスマスパーティ』であったが、その本質はお別れ会であった。 神裂をはじめとした、天草式とステイル、それにインデックスは本格的に英国付になる。 第3次世界大戦の終結を迎えたことで魔術師の抗争も沈静化した現状では、イギリス清教が学園都市で仕事をすることもないだろう。 必然的に、会う機会は減る。『遊び』には来れるものの、そうそう来れるものではない。 だから、お別れ会として盛大にパーティをすることになったのだった。 「でも、お前の知らない人間ばっかりだし。流石に、連れて行けねぇだろ」 「分かってるわよ、そんなの。じゃぁ、なんで明日も会えないっていうのよ?」 「インデックスを見送って、その気持ちのままお前に会うのが失礼だと思ったからだ。沈んだまま、クリスマスなんて楽しくねぇだろ」 「なんで1人で見送りする前提なのよ。私も、連れてけって言ってんの。2人で見送ればいいんでしょうが」 美琴は上条の胸に右手を叩きつける。力のこもらない弱々しいものだった。 「2人で分かち合ったら、悲しみもちょっとは和らぐでしょうが……なんで、全部…1人で、抱えようとすんのよ」 上条に思いのたけを全てぶつけた美琴の声は涙で消えそうだった。 「ごめん、美琴」 上条は目の前で泣きじゃくる美琴を抱きしめる。自分の足りないところを埋めるかのように。 「落ち着いたか?」 「……うん」 上条は美琴が落ち着くまで優しく抱きしめていた。目を泣き腫らした美琴が頷く。 「そうだよな、なんで考えなかったんだろうな」 「アンタは、視界が狭すぎんのよ。サイじゃないんだから、偶には周りも見なさい」 私も人の事言えないけどね、と美琴は続ける。 「ほんとうに、お前はすごいよ」 「すごくなんてないわ」 美琴は上条に抱きしめられたまま身をよじり、その胸に頬を寄せる。 「インデックスの見送りなんて言いながら、明日当麻と一緒に居れることを喜んでる。そんなズルイ人間なの、私も」 「…………」 美琴の言葉を否定するように、上条は美琴を抱きしめる腕に力を込める。腕の中にいる美琴の良い香りが、上条の心を癒す。 「美琴………」 「なに?」 美琴は上条の顔を見上げる。目線は合わせてくれないが、上条の顔は優しげだった。 「ほんと、悪かった。さんきゅーな」 上条は照れくさそうに、にやっと笑う。美琴が想う上条らしい笑顔で。 「ねぇ、悪いと思うならさ。お願い聞いてくれる?」 「あぁ、いいですとも。愛しの美琴たんに迷惑をかけてしまいました上条当麻になんでもおっしゃってくださいませ」 上条は鼻をふふんとならすと、美琴の耳元で何でも言ってみろと囁く。 耳元で囁かれた事で顔を真っ赤にしてドキドキと動揺している美琴は、大きく息を吸うとニヤリと悪戯っぽい笑顔を浮かべる。 上条はそんな笑顔に違和感を覚える。 (あれ……もしかして俺、地雷踏みました?) だがもう後の祭り。口から出てしまった言葉を打ち消す能力は上条にはない。 「今日1日、私の言う通りにしなさい」 「分かったよ、どうせアレだろ?お前が寮に帰るまでだろ。たいして時間ねぇぞ?」 上条は少なくとも大覇星祭のときのような事にはならないだろう、と安堵する。 「何言ってんのよ。今日は、泊まっていくわよ?」 「はぁ?なに言って―――」 「言う通りにするのよね」 「そうですね、すいませんでした」 上条が抵抗の意志をみせた瞬間、美琴は右手をビリビリと帯電させるとテレビに向けていた。 『家電が順番に死ぬけど、いいのかな?』と暗、いや明らかに示している美琴に、上条は無条件降伏を飲んだ。 「なんだよ、明日の朝までは付き合えってことか?」 上条は美琴に回していた腕を離すと、美琴が不満げな顔をしているのも無視してその場に寝転がった。 「そうやって何でも勝手に判断しちゃうのは当麻の悪い癖ね」 美琴は携帯を開くと上条の目の前にズイと出す。いつの間に撮ったのか、待受けが上条の寝顔になっているのはツッコミ待ちなのだろうか。 「美琴サン?なんなんでせうか、この写真は?」 「私がマンガ読んでる横で寝てたから撮ったのよ。それ以来ずっとこれが待受け」 (と、いうことはですよ) 上条は顔を赤くしている美琴を見つめて思い出す。そもそも、美琴が上条宅に来るきっかけとなったのが月曜に出るマンガ雑誌だった。 何かにつけて家に来たがる美琴が、そのマンガ雑誌を読んでる横で上条が寝ていた事はある。どうやらその時に撮られたらしい。 (ということは、アレか。何かにつけて俺の部屋に来たがったのは、俺に会うためか) 上条はマンガを言い訳にやって来る美琴を思い出してみる。あの時は正直、鬱陶しいくらいだったが本心を分かった上で考えると非常に可愛い行動に見える。 「なぁ、美琴………お前、思ってたより可愛いやつだよな」 「んなっ!?」 「あ、外見は前から可愛いと思ってたんだけどよ。こんな写真待受けにしたり、マンガ口実に俺の部屋に来たり……」 「ととと当然何を言い出すのよ、このばかっ!」 上条は腹筋を使って起き上がると、美琴は耳まで真っ赤にして煙でも出そうな美琴の頭を撫でる。 「こんな可愛い美琴たんをスルーしていたなんて。上条さんは昔の自分を殴ってやりたいですよ」 「ふふふ、ふにゃぁぁぁ」 右手で撫でられているので漏電することはないものの、全身の力が抜けた美琴は体重を上条に預けてしなだれかかる。 上条はそんな美琴の行動が『甘えて来てる』と勘違いしたのか、その頭を優しく撫で続けるのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Daily Life
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とある盛夏の提琴独奏【ソロコンサート】 ここに一人のメイドさんがいる。彼女はお客様に対して、「いらっしゃいませ! こちら本日のパンフレットになります」と愛想良く対応しているが、お客様が離れて一人になった瞬間、憂鬱そうに表情を曇らせて溜息を吐いた。「…はぁ…今年も来ちゃったか………盛夏祭…」季節は夏。今年もまた、彼女はステージに立たなければならない。 ◇「平素、一般へ開放されていないこの常盤台中学女子寮が、年に一度門戸を開く日。 それが盛夏祭だ! 今日は諸君等の招待した大切なお客様が来場される。 寮生として、恥ずかしくない立ち居振る舞いを以って、 くれぐれも粗相無きよう御持て成しするように」という寮監のお決まりの挨拶を皮切りに、今年も盛夏祭が開催された。中学3年という最上級生になった美琴は、去年以上に尊敬と憧れの視線を集めるようになっており、今年も寮生代表に推薦され、バイオリンを弾く段取りとなっている。(このままパンフレットを配るだけで一日終わってくれないかなぁ…? …なんて、そんな事ある訳ないか……)去年も緊張してステージに出るのを躊躇っていたが、今年はその時の比ではない。何故なら、(……アイツも…来るのよね………)「アイツ」とは勿論、上条当麻の事である。今年も繚乱家政女学校が料理を監修しているので、そこの生徒である舞夏が、去年同様インデックスを招待したのだ。そしてインデックスが来ているという事は、その保護者(?)の上条も来ているという事である。ちなみに、オティヌスは人目に付く場所に出てきたら騒ぎになるので、上条の寮でお留守番だ。今頃はスフィンクスと仲良くケンカ(ただしオティヌスは命がけ)している事だろう。リアル・トムとジェリーである。去年は、ステージの裏で出会うまで上条が来ている事は知らなかった。知らなかったが故に、ステージ直前で彼とバッタリ会った時には、驚きのあまり逆に緊張も解れた。が、今年は違う。初めから来ると分かっていると、それはそれで緊張してきてしまう物なのだ。しかも今の美琴は、去年の盛夏祭の時期には無かった心の変化がある。(う~~~! ヘマして嫌われちゃったらどうしよう……)恋心である。絶対能力進化計画で妹達と自分の命を救われて以降、彼女は本気で上条に恋をするようになった。あれから約一年。彼女の中の恋心は失われること無く、むしろ膨らむばかりである。自分だけの現実に、大きく影響する程に。演奏を失敗したぐらいで上条が自分を嫌う訳がないとは分かっているのだが、それでも「万が一」という可能性を捨てきれない。「私って、いつからこんなに弱くなっちゃったんだろう…」と、本日何度目かも分からない溜息を吐く美琴。すると、二人のお客様が近づいてきた。美琴は気持ちを切り替えて、精一杯の営業スマイルを浮かべながら、「いらっしゃいませ! こちら本日のパンフレットになります」と二冊のパンフレットを取り出す。だがそこには。「こんにちは御坂さん! やっぱり雰囲気が違いますね! お嬢様の匂いがしますもんね!」「初春、興奮しすぎだよ。去年も来たじゃん。 っと、こんにちは御坂さん。相変わらず、メイド服姿が似合ってますね~!」「初春さん! 佐天さん! いらっしゃい、楽しんでってね!」 親友二人の来場に、少しホッとする美琴である。彼女達は去年と同じく、白井に招待されていた。そして件の白井はと言えば、「はーい…いいですわよー…オーケー…そのままそのまま…」とフラッシュをたきまくりながらカメラのシャッターボタンを押しまくっていた。いつの間に、である。彼女はどうやら今年も記録係に立候補したらしく、相変わらず何の記録なのか美琴の姿ばかりを写真に収めている。寮生は全員メイド服を着用する事になっているので、白井も美琴と同様メイド姿なのだが、あまりメイドさんにしてほしくない奇行である。一応補足しておくと、白井は誰に対しても変態行動を取る訳ではない。美琴限定である。だが美琴は、とりあえず白井を焼いた【ビリビリした】。「あっふん! ほ、本日もお姉様への愛が痺れておりますのっ…!」「二人はこの後どうするの?」「こことこことここ! それからこことここにも行ってみたいです!」「だから興奮しすぎだってば… とりあえず初春と適当に回ってみますよ。去年も来たから、どこに何があるか大体分かりますしね」白井はまだ軽口を言える程度の余裕はあるようだが、そんな彼女を放置して会話をする三人。一年以上も行動を共にすれば、変態さんの扱いにも慣れてくるという物だ。と、そんなタイミングで、「おーっす、美琴」と手をひらひらさせながら上条が来場してきた。一瞬にして顔を真っ赤にさせた美琴に、初春は釣られて赤面(上条に対してではなく、美琴が赤面した事でその理由を想像したから)し、佐天は何やらニヤニヤし始め、白井は上条に牙を剥いて「ガルルルル」と唸り声を上げた。「い…いら、いらっしゃいませ…」先程までの営業スマイルはどこへやら、顔を俯かせてボソボソと喋る美琴。上条はパンフレットを受け取りながら、いつものように冗談めいた事を言う。「あれ? その格好なら、『お帰りなさいませ、ご主人様』とかじゃないのか?」「こ、ここはそういうお店じゃないわよっ!」売り言葉に買い言葉。上条のいつもの態度に、美琴もつい釣られていつもの態度で言い返してしまう。すると上条はニカッと笑い、「ん! やっと美琴らしくなったな。…ったく、いっちょまえに緊張なんかしてんなっつーの」「~~~っ!!!」と美琴の頭をポンポンする。どうやら美琴が緊張している事を察した上条は、その緊張を解してあげる為に、美琴が軽く怒りそうな事をわざと言ったらしい。その結果、美琴は既に真っ赤だった顔を更に真っ赤にさせて、初春も釣られて更に赤面し、佐天は更にニヤニヤし、白井は上条に「キシャーッ!」と威嚇する。「ところで上条さん! 御坂さんのメイド服を見ての感想は?」このまま眺めているのも面白いが、もっと面白くなるように佐天が口を開いた。感想、と言われても上条にはこうとしか答えられない。「ん? 普通に似合ってるんじゃないか? すげー可愛いと思うし」「にあっ! かわっ!!?」上条からサラリと出てきたワードに、口をパクパクさせる美琴。佐天の策略通り、やはりもっと面白い事になったようだ。「はーい、もう時間切れですのー!」が、そこで我慢の限界を迎えた白井が両者の間に割って入ってきた。白井は上条を睨みつけると、「さぁ、もうお姉様への挨拶は済みましたでしょう! ならば、さっさと去ねや類人猿! ですの!」あまりメイドさんの口から聞きたくない暴言である。一応補足しておくと、白井は誰に対しても厳しい態度を取る訳ではない。上条限定である。と、そんな白井に一人の少女が話しかけた。 「おー、いたいた白井、探したぞー」上条とインデックスを招待した舞夏だった。「あー…悪いな。インデックスだけじゃなくて俺まで招待されちまって」「むー? 気にするな上条当麻ー。一人も二人も違いは無いぞー。 と言うか、あのシスターが一人で10人前も20人前も平らげているからなー。 料理長の源蔵さんも悲鳴を上げていたぞー」「……ウチの子がご迷惑をおかけして申し訳ありません…」インデックスは現在、上条と別れてビュッフェを満喫しているようだ。唯でさえレベルの高い料理なのに、それが食べ放題となれば、インデックスにとってはパラダイスであろう。「っと、そうだー。その件で白井を探しに来たんだったー。 白井ー、ビュッフェの手伝いはどうしたー? 去年もサボっていただろー」「うぐっ!? で、ですが今ここを離れる訳には…」自分が防波堤にならなければ、このまま愛しのお姉様と憎き類人猿が良い雰囲気になりかねない。白井としては、少なくとも上条が別の場所へ移動するまでは安心して他の仕事ができないのだ。「またそんな事言ってー。ほら、来るのだー」「あっ! ちょっ! お、お待ちくださいまし~!!!」だが舞夏はそんな白井もお構いなしに、襟を掴み、引きずる形で連れて行く。これで白井【じゃまもの】は消えた。佐天は「チャンス!」とばかりに美琴の持っていたパンフレットの束をひったくると、近くにいた他の寮生に声をかける。「すみません! これからあたし達、御坂さんに案内してもらうので、残りのパンフ頼めませんか!?」「勿論構いませんわ。ごゆっくりお楽しみくださいな」「ありがとうございます!」こういう時の佐天さんのアクティブさは、見習わなければならないと素直に思う。佐天はパンフレットをその寮生に託し美琴の下へ戻ってくると、舌の根も乾かぬ内に、「じゃっ! あたしと初春は二人だけで回ってきますので、 御坂さんは上条さんを案内してあげてください!」と言ってきた。「えっ……ええええぇぇぇぇっ!!? さ、佐天さん達を案内するんじゃないのっ!?」「言ったじゃないですか。去年も来たから、どこに何があるか大体分かるって。 でも上条さんは慣れてないみたいですからガイドが必要だと思うんですよ! ねっ? 初春もそれでいいでしょ?」「も、勿論私も構いません!」佐天ほど積極的ではないが、初春も美琴を応援する側である。佐天の提案に、初春は赤くさせたままの顔をコクコクと上下させて頷いた。「い、いや…でも…その…あの……」抗議しようとした美琴だったが、口を「あうあう」させるだけで言葉が出てこない。その隙に佐天は初春の手を引きながら、「じゃ、『頑張って』ください♪」と美琴に向かってウインクをした。初春もまた、佐天に手を引かれながらも上条と美琴に向かって会釈をする。しかしその会釈は、別れの挨拶という意味以上に、佐天と同じく『頑張れ』という、応援としての意味合いの方が大きかったのだろう。こうして美琴は、上条と二人っきりにされてしまった。ステージまでには、まだ時間がある。「じゃあ、せっかくだから案内してもらおうかな?」上条とのプチデートが始まった。 『仕方なく』上条を案内する美琴。しかし彼女は常盤台を代表する二人のレベル5の内の一人であり、この盛夏祭で、もっとも注目を浴びている人物だ。上条と二人で歩いているだけで、自然と視線を集めてしまう。「ご覧になって! 御坂様ですわ!」「お隣の殿方は、御坂様のお知り合いの方なのでしょうか?」「もしかして御坂様の好い人なのでは…?」「まあ! 流石は御坂様、大人の女性ですわ~!」おかげで周りでは「きゃーきゃー」と黄色い声が上がっている。美琴は頭から煙を出し、もはや爆発【ふにゃー】寸前だ。「な…何かゴメンね…? 周りが勝手に勘違いしちゃって……」「いや、俺は別に構わないけど… つーか俺の方こそゴメンな。美琴が有名人だって気付くべきだった」「わっ! わわわ私は気にしてないからっ! むしろ………えと…その…」『むしろ』の後がうまく出てこない美琴である。しかもテンパりすぎて、上条が「俺は別に構わない」と言った事も聞き流してしまう始末だ。「と、とりあえずどこか入りましょうかっ! このままウロウロしてても始まらないし!」と理由付けをしている美琴だが、真の理由は「このまま周りから煽られ続けたら、本当に『ふにゃー』しかねないから」である。美琴は咄嗟に、近くにあった「茶道体験教室」と書かれたブラックボードに目を向ける。「こ、これ! これやりましょ! 暑い日に飲む熱いお茶ってのも乙な物なのよ!?」必死である。「ああ、いいぞ。お茶なら周りも静かだろうしな。 けど俺は茶道なんて全然分かんないから、手取り足取りのご指導でお願いしますぞ? 美琴センセー」「ててて、手取り足取りいいいいぃぃ!!?」頭の中で、体を密着させながら教え合う自分と上条の姿が思い描かれ、益々テンパる美琴であった。 ◇しゃかしゃかと茶筅を使う音が教室に響く。メイド服の少女が、茶室(に改造された教室)で茶を点てる光景は中々にシュールではあるが、それを感じさせない程に美琴の姿は板に付いていた。上条も見惚れてしまう程に。先程は軽い気持ちで「手取り足取りのご指導」なんて言っていた上条だったが、この雰囲気に思わず緊張してしまった。(う~、なっさけねぇ~…美琴に『いっちょまえに緊張なんかしてんな』とか言ったくせに、 俺が緊張してちゃ格好つかないよな~……けど美琴が何かいつもより綺麗に見えるし… いや、お嬢様なんだから茶道の嗜みとかもあるんだろうけど、普段とのギャップのせいかな?)そんな事を思われているとは露知らず、美琴はお茶を差し出す。「ど、どうぞ…」「あ、いただきま…じゃなくて、えっと……お…お手前頂戴いたします…」上条は周りの見よう見まねで茶碗を数回まわし、恐る恐るお茶を口に運ぶ。すると、「っ!? 美味ぇ! 何だコレ、苦くない! いや、苦いは苦いんだけど、ほんのり甘味があるような…? 高い抹茶使ってるからなのか、美琴の淹れ方が良かったからなのか… もしくは両方なのかも知れないけど、とにかく美味いよ! 素人の俺でも分かるくらいに!」あまりの美味しさに大声で絶賛してしまった。厳かな空気が台無しである。しかし上条の素直すぎる感想に美琴も「ぷっ!」と吹き出してしまい、幸か不幸か、ようやくいつも通りの関係に戻れた。 「あはは! まぁ、喜んでもらえたなら何よりだわ!」「…何だかバカにしているように見えるのは、ワタクシの気のせいでせうか?」「気のせい気のせい! そう見えたならゴメン!」カラカラと笑う美琴に若干の不満を持ちつつも、「まぁ、やっと笑ってくれたからいっか」と安堵にも似た溜息を吐く上条。「あ、そうだ。ゴメンついでにもう一つ謝っておくけど、 ちょっとこの空気じゃ色んなトコ案内できなさそうかも」「ああ、いいよいいよ。また俺と一緒に歩いてる所を見られて、騒ぎにしたくないもんな。 俺なら、美琴のステージの時間までずっと茶室【ここ】にいても平気だから、気にすんな」「そ、そう? そう言ってくれるとありがたいけど…」「それに―――」すると上条は、少し照れくさそうにして言葉を続けた。「…それに、美琴と一緒にいるだけで退屈なんてしないからな」「っ!!!」何故この少年は、自分が言ってほしい言葉を当たり前のように言ってくれるのだろう、と美琴は思った。顔に熱が帯びてくる。それは夏の暑さのせいでも、茶の湯の熱さのせいでもなく。その後二人は、美琴のステージの時間まで特に会話する事もなく、お茶を飲み続けた。しかし二人の間に流れる沈黙は、何故か心地の悪い物ではなかったという。 ◇「じ、時間だから、私もう行くね!?」「ん? ああ、もうこんな時間だったか。分かった、頑張れよ」ステージの時間が迫ってきたので、美琴は着替える為に立ち上がる。「じゃあ、俺はどうしよう。観客席で待ってた方がいいのかな?」流石に着替えを手伝う訳にはいかない。そもそも一緒に歩くだけでも騒ぎとなって美琴に迷惑がかかるので、上条はここで美琴と別れようとする。しかしここで、美琴が思いも寄らない事を言ってきた。「……い…一緒にわた、私の部屋…に………来…て、くれない…かな…?」「………へ?」上気させた顔を俯かせて、目にはうっすら涙を溜めて、モジモジしながらも精一杯の素直な気持ち。先程までの時間でいい雰囲気になれたので、またツンツンとした態度を取ってしまう前にと、美琴は頑張って勇気を出した。「え、いや…でも……」「ド、ドレス! 着替えたら一番にアンタに見てほしいのっ!!!」どういう訳か、美琴はドレスアップした姿を一番初めに上条に見てほしいのだと言う。理由は分からないが、美琴がここまで言うのだから、何か特別な意味があるのだろう。と、一応上条も理解した。「どういう訳か」とか「理由は分からない」とか「何か」とかが普通に出てくる辺り、やはりそこが上条の上条たる所以なのだろう。上条と美琴は、茶室を出てそのまま美琴(と白井)の部屋に向かった。その道中…更には二人が一緒に部屋に入る所を他の寮生に目撃され、大騒ぎになったのは言うまでもない。 ◇「お、おおぉ…」「な、何よそのリアクションは……良かったの!? 悪かったの!?」美琴の部屋に通された上条は、そのままベッドの上に座って待たされた。美琴の着替え待ちだ。ちなみに、部屋には上条がいるので、更衣室の代わりとしてバスルームを使用している。しばらくしてバスルームから出てきた美琴は、これから行うバイオリンのソロ演奏の為に、ドレスを着飾っていた訳だが、あまりの美しさに上条は、「おおぉ…」としか言えなかったのだった。「いや、その、何つーか……すっげぇ綺麗で…えと、うまく言葉が出てこなかった…」「えっ!? …そ、そう………あ、りが…と……」上条が「かあぁ…」と赤面するのに釣られるように、美琴も「かあぁ…」と赤面する。しかしここで、美琴のドレス姿を見て何かを思い出した上条が、ふとこんな事を言ってきた。「…ん? あっ、そう言や去年のあの時の女の子って、もしかして美琴だったのか!?」「へ? いや、そうだけど………えっ、何!? 今まで忘れてたの!?」あの時の出会いはフライングのような物で、上条にとっては記憶を無くしてから初めて美琴と会話を交わした瞬間だったのだが、すっかりと忘れ去られていた。上条が覚えている美琴との一番古い記憶は、自販機にハイキックをかました、例の「ちぇいさーっ!」事件だ。あの時は偶然とはいえ、自分の為に緊張を解してくれたという思い出があるだけに、普通に忘れられていた事は地味にショックな美琴である。しかしフォローする訳でもないと思うが、上条は頭をポリポリと掻きながら。「あー、悪い。全っ然気付かなかった。多分、その後に会った美琴の姿とかけ離れてて、 盛夏祭で出会った人だとは思わなかったんだろうな」「何よ…そのちょっと嬉しいような、全く嬉しくないような理由は……」「だからゴメンって。ほら、一年前の時の美琴…つーか今の美琴もだけどさ、 正直、思わず見惚れちまうくらい綺麗だったから、 美琴と別人だって認識しちゃっても、仕方ないんじゃないかな~って上条さんは思う訳ですよ。 …ま、いつものミコっちゃんはいつものミコっちゃんで、別の魅力があるんだけどな」「なっ!!? ……ば…馬鹿ああああぁぁぁぁっ!!!」サラサラと出てくる嬉しい言葉の数々に、もう顔を合わせられなくなってしまう美琴。結局そのまま美琴は飛び出し、ステージへと走って行ってしまった。これ以上、上条と話していると演奏どころではなくなりそうで。 ◇この日、ステージで美琴が弾いたその曲は、アントニン・ドヴォルザーク作曲の『糸杉』。あまり有名な曲ではないが、美琴はどうしてもこの曲を弾きたかった。ドヴォルザークは、片想いをした相手に素直に告白できなかった為、その想いを込めて「糸杉」を作曲したのだという逸話が残されている。美琴は、どうしてもこの曲を弾きたかったのだ。そんなエピソードは勿論、曲のタイトルや作曲者も知らない上条は、観客席で「綺麗な音色だなぁ…」と思いながら、演奏する美琴を眺めつつ、ほんのりと顔を熱くさせるのだった。
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バレンタインネタ バレンタインデーそれは女の子にとっては年に数回あるかないかの想いを伝えるタイミングの日。バレンタインデーそれは男の子にとって好きな女の子からチョコ&告白を(貰える)されるかもしれないイベントの日。そんなイベントは科学技術が外の世界よりも2、30年進んでいる学園都市でも行われる。まぁ不順異性交遊に繋がる可能性があるため基本的には禁止なのだが。常盤台中学の寮に、とあるツンツン頭の少年に恋焦がれる乙女がいる。御坂美琴、超電磁砲(レールガン)の異名をもつ中学2年生にして、7人のレベル5のうちの第3位。そんな近寄りがたい肩書きを持っていてもやっぱり年頃の少女には変わりない。美琴は明日のバレンタインデーの為にチョコレートを作っていた。そのチョコレートも、もうあとは文字をホワイトチョコで書いてラッピングして完成という段階までできていた。美琴「アイツ、甘いの好きかな…」美琴「気に入って貰えるかなぁ」美琴「もし、渡すのと一緒に告白なんてできたらなぁ……えへ、えへへへ」黒子「お、お姉さま?そ、そそ、それは、わたくしへのチョ、チョコでございますか!?」美琴「!!」(黒子!?いつのまに後ろに…てかさっきの聞かれた!?)美琴「く、黒子…ど、どうしたのよ、今日はジャッジメントの集会じゃなかった?」黒子「いえ、お姉さまへ渡すチョコの中に媚や……いえ、隠し味を入れようと」美琴「……黒子…あのパソコン部品なら昨日のうちにゴミに出しておいたわよ?」黒子「………(汗)」(あらら、ばれてましたの)美琴「………(電)」(ったく、こいつはいつもいつも!一回〝真っ黒子げ〟にしてあげようかしら)美琴は弱めの電撃の槍を放った。しかし黒子は美琴の雷撃をテレポートで冷静に交わし、逃げた。黒子「お姉さまの攻撃パターンは何回も見たり当てられたりすれば身体が覚えますわ」とテレポート。黒子「まぁ手加減してくれているのでしょうけど、さて黒子はジャッジメントの集会がありますの」黒子「今日、明日は泊りがけで行ってくるので」とテレポート。黒子「お姉さまへのチョコはバレンタインデーが終わってからになりますけど、申し訳ありませんの」美琴「ん?まぁいいわよ、ただ変な物入れたりしたらアンタをこの部屋から追い出すからね!」黒子「うっ、しょ、承知しましたの。では」どうやらテレポートでジャッジメント本部に向かったみたいだ。美琴「ふぅ、さてチョコレートの続きを……あれ?」さっきまでの作りかけのチョコレートが無くなっていた。美琴の脳内で三つの仮説が生まれた。①、黒子とのバトルで間違って吹っ飛ばしてしまった。②、黒子が隙を見て盗んだか。③、その他の理由で紛失したか。美琴「………②だな」美琴は途方にくれた。今日は13日、町中の女の子がチョコを作るためたくさんの市販のチョコを求めて買いに走るであろう事は知っていた。だから美琴は使う分のチョコを3日前に買っておいたのだ。しかし、そのチョコもさっきの作っていたのに全部使ってしまいもう残っていない。今の時間は夜の9時、黒子がいればテレポートで送り迎えができた。いやそれはもう無い可能性だから考えないようにしよう。どうする。寮の電子ロックや防犯カメラはいじくれる。考え込んでいてもしょうがないしコンビニでも見に行ってみよう。と決めた。30分後、「ありがとうございましたー。」美琴「はぁ…板チョコ1枚しか売ってないって……わたし、不幸かも」と嘆いていた時、後ろから声がかかってきた。??「あれ?御坂?こんな時間にコンビニ寄ってなにしてんだ?」美琴はビクっとして恐る恐る振り返る。そこには今、会ってはいけない人物がいた。ツンツン頭の少年、上条当麻だ。美琴「あ、アンタこそ、こんな時間に何うろついてるのよ」当麻「ん?あーうちの寮な風呂ぶっ壊れちまってよーシャワー使えんだけどたまにはお湯に浸かりたいんで近くの銭湯まで行ってきたんだ」当麻「そういうお前は、何買ったんだ?」美琴「な、なんでもいいでしょ……お、お菓子よ、お菓子!。……そうだ、アンタ明日は時間ある?」当麻「明日か?まぁ日曜だしな。それにインデックスもイギリスに帰っちまったし、時間ならいくらでもあるぞ」美琴「そっか、明日は日曜だったわね。」(黒子は部屋にいない。明日は休み。あのシスターはイギリス)ぶつぶつぶつ……当麻「どうした御坂?さっきからぶつぶつ言って」美琴「決めた!今日アンタの寮に泊めて」当麻「……は?」(な、なんだって?寮に泊まる?部屋は?ん、この場合俺の部屋になるのか?)美琴「だから!アンタの部屋にあたしを泊めてって言ってんの!おわかり?」当麻「お前、本気で言ってんのか?」美琴「こんなこと冗談じゃ言わないわよ」といいながら身をぶるぶる震わせる。当麻「わかった。こんなとこにいると寒くて風邪引くからはやく行くぞ」美琴「やった♪」そういいながら上条の右腕に抱きついた。当麻「おい…これじゃまるで……」美琴「なによ?まるでカップルみたい?いいじゃない別に寒いんだし」当麻「俺は構わないけど、他の人に見られて困るのお前だろ?」美琴「か・ま・わ・な・い・わよ♪」(ちょっと大胆かな?恥ずかしくて顔上げれないや)当麻「はぁなんか今日は最後の最後に御坂に振り回されてんな」美琴「文句あるわけ?」当麻「いや、たまにはこんな幸せ桃色空間も悪くないかな?っと」美琴「??よくわからないけど早く行きましょ」当麻「そうだな」そうして上条の寮について少しすると御坂美琴と上条当麻の2月13日は終わりを告げた。2月14日、午前0時27分上条当麻と御坂美琴は上条の部屋のこたつの中にいた。美琴「当麻の寮ってちょっと遠いわね」当麻「ん?今名前で呼ばなかった?」美琴「あ、ダメ……だったかな…」(そうよね、いきなりはダメよね)当麻「う~ん、かまわねぇよ、むしろアンタとか呼ばれるより名前の方が気付きやすいかもな」美琴「ほんと?え…っと、とぅ…とぉま?」(うっ意識すると言えなくなる……)当麻「なんか、お前の言い方…ちょっと可愛くて照れるんだが……」美琴「え?可愛い?あたしが?」当麻「うー、なんだ…ほら、あ、そうだ!みかん食べようぜみかん、ちょっと持ってくる」上条はそう言うと台所にあるダンボールの中のみかんを取りに行った。美琴「……うまく話し逸らしたつもりかしら…」当麻「ほらよっ、このみかんすっげぇ甘いんだぜ。結構オススメ」美琴「ふーん。それよりさ、と、当麻って呼ぶから、わたしのこと美琴って呼んでよ」当麻「……はい?」美琴「ビリビリしないと理解できないのかな?そうかぁ…なら仕方ない。手加減してあげるから左手だしなさい」当麻「ひぃ!いいです!理解できました。ごめんなさい!美琴!」美琴「そうそう。ちゃんと言えるじゃな……ぃ…」(こ、これは予想以上に恥ずかしい……)当麻「どうした?おーい?大丈夫かぁ?美琴?」美琴「だ、大丈夫よ!」そのあと、テレビを見たりして二人でぎゃあぎゃあ騒いでいた。美琴「ふぁ…眠くなってきちゃった……」時刻はもう深夜の1時を過ぎていた。当麻「そうか、ベッド使っていいけど、美琴は風呂入ってきたのか?」美琴「うん…今日はご飯たべて……すぐ…お風呂入ったから大丈夫ぅ」当麻「わかった。じゃあ寝るとしますか」美琴「……ねぇ」上条はコタツを端によせて布団を敷いていた。当麻「どうした?明かりなら今消すからちょっと待ってくれ」美琴「そうじゃなくて……ベッドでさ…一緒に寝ない?」当麻「……上条さんに拒否する権利は?」美琴「当然…なぃ…一緒に寝てくれないと…夜中電気ショックで起こすかも……」当麻「仕方ないな。添い寝くらいならしてやる」美琴「じゃあ、手…握っててくれる?」上条はこのお姫様の言う事をきかないと後が大変そうだと思い、しぶしぶ美琴の申し出を受け入れた。当麻「かしこまりました。姫」そう言うと、上条は部屋の明かりを消し、美琴の寝ているベッドに入りこみ、美琴の手をギュッと握った。美琴「えへへ~……幸せ……むにゃむにゃ」(zzz)当麻「………」(ったく、手握るなり直ぐに夢ん中入ってやがる)当麻「………」(はぁ、こっちは緊張して、手握ってるからか全然眠くならないし)当麻「………」(あれ?手離れねぇ…うわぁ、寝たらベッド出ようと思ってたのに…)美琴「…もぅ…」当麻「……?」(もう?)美琴「…はにゃさにゃぃんだかりゃ~……うんん…むにゃむにゃ」(zzz)当麻「………」(……可愛い…あれ?手離れてるじゃん……)当麻「…仕方ないな」上条は少し離れてしまった少女の手を捕まえてまた握った。当麻「………」(今日だけ特別だからな)美琴「………」(ぁりがと、当麻)その夜少年が自分の精神との格闘に見事打ち勝ち、寝れたのは3時間後のことだった。 2月14日、午前8時5分美琴「…ぅま……ねぇ…おきて、当麻」当麻「んぁ?……あれ?御坂?」バコッ!上条は美琴に頭を叩かれた。当麻「痛ッ…起きたばかりの上条さんになにすんだ!」美琴「昨日言った言葉、もう忘れちゃったの?」美琴はジーっと上条を見つめて涙目になっていた。当麻「…昨日って?……あ」美琴「思い出した?だったら許してあげる」当麻「わりぃ美琴、まだ名前で呼ぶの慣れないし、ちょい恥ずかしいんだ」美琴「そりゃわたしだって……まぁいいわ。ご飯作ってくるから待ってて」当麻「え?いいの?あ、でも俺もなんか手伝うよ」美琴「手伝わなくていいわよ。その代わりに後でご飯の感想聞かせて頂戴?」当麻「あ、ああ。わかったよ」美琴「じゃあ作ってくるわね」当麻「……」(昨日の今日だから妙に美琴を意識しちまうなー)美琴「ふん♪ふん♪ふーん♪」 朝食後当麻「ごちそうさまっした」美琴「お粗末さま」当麻「美味しかったぞ、美琴。こんな美味いなら毎日にでも食いたいな」美琴「ま、毎日って…そ、そこまで言うならたまに作りに来てあげてもいいわよ?」当麻「本当ですか?美琴センセー……あ、でも朝はいつも時間ないから諦めるよ…」美琴「あ~そっか…夕飯ならどうかな?」当麻「そうだな、じゃあたまにだけどお願いな」美琴「ねぇ当麻?その、代わりと言っちゃなんだけど、ご飯作ってあげるからその分泊まりに来ちゃダメかな?」当麻「なっ!美琴…自分が何言ってるかわかってるのか?」美琴「あ、あたりまえでしょ!こんなこと当麻にしか言わないわよッ!」当麻「え?それは…つまり……え?…そういうこと?」美琴「あれ?あたし…なんか言っ……」(これって…こ、告白と思われても不思議じゃない?あーもうダメ!考えてもダメ!行動しなくちゃ!)美琴「…もう、がまんできない!言うわよ!わたしはね、アンタが、当麻が好き。もう自分の気持ちをごまかしきれない、当麻が大好きなの!」美琴「今日が何の日か知ってる?バレンタインデーよ、女の子が勇気を出す日なの。本当はチョコあればよかったんだけど、黒子に持ってかれちゃったの。でもねチョコなんかなくても気持ちを伝えることはできる。当麻はちゃんと言葉で言わないと気付かないと思ったから…」当麻「…………」美琴「…………」当麻「……美琴」美琴「………迷惑…だったかな…あはは…」美琴の声は今にも泣きだしそうな声だった。美琴「…ごめ…んね…朝から……わたし、帰るわね」そう言って、立とうとしたとき、上条の口が開いた。当麻「待ってくれ。ちゃんと返事させてくれ、美琴」美琴「…うん」当麻「まさか、お前が俺のこと好きなんて思わなかった。せいぜい仲の良い異性かな、くらいで終わりだと思われてると勝手に勘違いしてた」当麻「でも、こうしてお前、美琴が伝えてくれたから。まぁこんな話は言い訳にしかならないな」当麻「…結論から言うと、俺は……お前とは付き合えない」その言葉を言われた時美琴を激しい後悔が襲った。告白なんてするんじゃなかった。そうすれば上条の日常の中に自分の居場所があったのに。もう戻れないと思うと涙が出てくる。この気持ちも止められないものだった。当麻「…でも」美琴は泣きながらも上条のその言葉を聞いていた。当麻「付き合えない理由ってのが美琴がまだ中学生ってことなんだよ」当麻「俺自身は美琴のことが好きだ。昨日、今日でお前に俺の気持ちを気付かされたよ」当麻「だからな、美琴さえよければ、待っててくれると上条さんは嬉しいわけで…」上条のその言葉を聞いてさっきまで美琴が抱いていた後悔は綺麗に消え、今は安心という感情が心の中で一杯になっていた。美琴「えぐっ……それ…って…グスッ…」当麻「ああ、美琴が高校生になったらって」美琴「うっ…嬉しい……けど……」当麻「ダメ…か?」美琴「ダメ……今抱きしめてくれないと」美琴のその一言で上条は力いっぱい抱きしめた。もう離さないという感じの強さだった。美琴「と、当麻、ちょっと苦しい…」当麻「あ、ごめんな」(1年も耐えられるかなぁ)美琴「当麻……」美琴は目を瞑ってちょっと上を向いて上条を待っていた。当麻「美琴…」(上条さんはやっぱり美琴が高校生になるまで待てそうにないみたいです)上条はそっと美琴の唇にキスをしたチュッと美琴「当麻…さっきわたしが高校生になるまで待つって言ってたよね?」当麻「…………」美琴「今はまだ友達ってことなのよね?」当麻「…………」美琴「当麻は女の子の友達にキス迫られたらしちゃうんだ?」当麻「そんなことはない!」美琴「わかってるわよ。ありがとう。キス…嬉しかった…」当麻「なぁ美琴、上条さんはなんか言ってること間違ったのかな……」(もう心が揺らぎそう…)美琴「さぁ?当麻が決めたことだし、でもあたしは1年間当麻にアタックしまくるつもりよ?」当麻「…………」美琴「そうだ、お風呂壊れてるけどシャワーは使えるのよね、ちょっと借りるわね」当麻「いや、ちょっと」美琴「当麻、覗いたらタダじゃすまないわよ?」当麻「…ふ、ふこ……あー!しあわせだぁぁぁああぁぁ!」 ~fin~
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一本の白き道 とある右手の番外編(パラレルワールドストーリー) ドモ。右手です。 えっ!?何でオマエが出てくるんだって?……イイじゃないですか……タマには……。 別にこの前出たことで味を占めた訳じゃありません。 何か前回より腰が低い? 前回は後ろ盾があったから、ちょっと大きな顔が出来ただけですってば。 元の私はこんなのです。 ゑっ!?オマエなんか出なくてイイから……早く、やっちゃった後のイチャイチャな美琴と当麻を書け? イヤ、私が書いてる訳じゃないんですけど……。 今回はちょっと事情がありまして、その説明というか……何というか……。この低姿勢もその現れでして……。 まぁ、私にも色々あるってコトで、その辺りはお許しいただきたいな……と。 実はですね……この前私どもの会合がありましてね。 何だよ?会合って……?……そりゃ、そうですよね。その反応が普通。 ええっとですね……何から話せばイイかな……? 皆さん、並行世界(パラレルワールド)ってご存知ですか? 並行世界(パラレルワールド)って言うのは……ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す訳ですが、今私が居るこの世界でも色んな世界が並行して存在してるって訳です。 で、その並行世界の右手が集まって(変な想像しないで下さいね。異様な光景ですから……)今の上琴の現状ってヤツを話し合った訳ですよ。 そしたらまぁ……出るわ、出るわ。秘守義務ってヤツがあるんで詳しくお話は出来ないんですけど……ココのエピソードの比じゃないですから。 とてもココじゃあ書けないような泥沼化したのもあれば、もう桃色空間全開過ぎて18歳未満はヤバイのまで……中にはかなりな鬱展開まっしぐらなのもあったりしましたが……。 で、話がどんどん進んでいって、結局行き着く先は、美琴さんの電撃を消すのは結構骨なんだよなぁ……っていう、話になっちゃったんですよ。 私としましては、最近美琴さんの電撃は……あんまり消してないかな? この前、スンゴイのを一発喰らいそう(実際に喰らいましたっけ……)になったんで……さすがにあの時は慌てましたけどね……。ハハハハハ……ハァ……。 今はどちらかと言うと、電撃より、漏電を止めてる方が多いですね。 えっ!? あの首筋の件はどうなんだって? そ……そんなコトもありましたっけかねぇ……。どうだったけかなぁ……。(遠い目……) で、ですね……さっきの会合の話に戻すと、その中の一人(と言うとおかしな話かも知れませんが……)がですね、かなり落ち込んでる訳ですよ。 『もう、毎日毎日が辛くって……。だって、美琴さんと来たら、顔を合わせる度に『バチバチ。ビリビリ。ドッシーン。ズッシーン。バッシャーン。ビビューン』と、やりたい放題で……しかもそのパワーがハンパない訳ですよ……正直、カラダが保ちません。少しお休みが欲しい訳で……一日でイイから、どなたか変わっていただけませんかねぇ……』 てな話が出て来ましてね。……で、誰が行くか?ってコトになって、なぜか満場一致で私に決まっちゃったんですよ……。 他の連中が言うには……『オマエが一番美味しい想いしてんだから……』って言うんですが……。 心当たり……無いんですよね……。 今までは、イマイチ『不幸』ってコトが分からなかった訳ですけど……今回は身に染みましたね。 ああ、『不幸』ってこういうことを言うんだ(遠い目……って目は付いてないんですけど……)……って。 だから言わせて下さい……。 不幸だ……。 ただ、私だけが行ったってどうにかなる訳じゃあないので……だって、私が力を揮えるのは上条さんのカラダの中に居る時だけなんですから……。 ということで、今回は上条さんと一緒に一日だけ、並行世界(パラレルワールド)に行って来ます。 それにしても……アッチの世界の私が、今日入れ替わるって言ってたけど……一体いつ入れ替わるつもりなんだろう? 変な時間に入れ替わられるとなァ……ホントは上条さんにちょっと説明した方が良いんだろうけど…… 言う時間もないし……言っても信じて貰えるかどうか…… 実際のトコロ、なるようにしかならない……と投げやりになっちゃいけないんだけど……ハァ、不幸だ…… 「ン~……何だ?誰かが独り言をボソボソ言ってるよーな気がするんですけど……気のせいでせうか?……ん~……第一オレしか居ねえもんな」 などと独り言を言いながら、朝の準備を始めてる上条さん。 最近は美琴さんからのモーニングコール前に起きて、3コール以内には電話に出るように心掛けておられます。 美琴さんもその事がエラくお気に入りのご様子で、もう朝からイチャラブ全開です。 時々、電話の向こう側で白井黒子さんの叫び声が聞こえる時があるんですけど……、大体美琴さんの電撃でやられてます。 学校の成績の方も、さすがにうなぎ上りとは行かないモノの、もう補習や追試とは無縁の生活が当たり前になっておられますよ。 人間、変われば変わるというか……変われるモノなんですねぇ……。 『ピンポーン』 「さすが美琴。定刻通りだな」 「おはよう、当麻。んっ」 玄関に入ってドアを閉めたら、もう朝のキスの催促ですか? 「ハイハイ。好きだよ、美琴。んっ……」 上条さんったら、おはようの代わりの『好きだよ』なんて言っちゃって……もう……。 「ウン……私も、当麻が好き。エヘへへ~……」 スイマセン……ストロングブレンド、プレスで煎れて戴けません? あ……砂糖いらないんで……。ハイ……。 「あ、そうそう、昨日出しといてくれた課題でさ、分かんないところがあるんだよな。まずそこを教えてくれないか?」 「え……ちょっと難しすぎたかな?今の当麻ならイケると思ったんだけど……」 「期待してくれるのは嬉しいけどさ、基本的にはまだまだなんだから……」 「そんなコト無いよ。かなり頑張ってると思うよ……当麻は」 「そうか?でも、美琴が居なかったら、オレはこんなに変われてないぞ。全部美琴のお陰だよ」 「そんな……でも、お世辞でもそう言って貰えるのは嬉しいな」 「お世辞な訳無いだろ。本気でそう思ってるよ。今のオレがあるのは美琴のお陰だ」 「エヘヘ~……ねぇ、当麻。そこまで言ってくれるなら……何かご褒美が欲しいな♪」 「ご褒美か……何がイイんだ?」 「……あのね……また……お泊まり……がイイな」 「オイオイ、ここんとこ連続過ぎないか?……そりゃ、オレだってずっと美琴と一緒に居られるのは嬉しいけど……」 「お泊まりがイぃイ~~~~」 「分かった、分かったよ。もう……ワガママなお姫様だ……」 「そのお姫様を強引に押し倒した勇者様はドコのどなたでしたっけ?」 「……んなこと言ってると、今朝の朝食は美琴になっちまうんだけど……」 「……ポンッ!……//////////……バカ……」 「……美琴……カワイ過ぎだ……」 「……今はダ~メ……続きは……んっ!!……もう……」 「続きは……お泊まりで……。……今は……キスだけ……だろ?」 「……む~~~~~~~~~~っ……」 「怒った美琴も可愛いぜ」 「ゴニョゴニョ……ふにゃあぁぁあぁぁぁぁ~~~~~~……当麻……ゴロニャン……」 「ハイハイ、撫で撫でな……」 「うん……エヘへへ~……しあわせ……」 すいませ~ん、冷房にしてもらえますぅ~。 それと、ストロングのアイスコーヒー下さ~い。 もう……朝っぱらから、桃色空間全開じゃないですか……。 でも……、コレで向こうに行ったらどうなっちゃうんだろう? そんなこんなで、上条さんは美琴さんに分からないところを教えてもらった後も続けて勉強。美琴さんは朝食とお弁当を作り始めてます。 最近は二人一緒に朝食を食べて、一緒に学校に登校。 といっても、途中の交差点で分かれるんですけどね……。 さすがに外では『バイバイのチュッ』はしませんけど……出掛ける時の『行って来ますのチュウ』は……ねぇ……。 まだ3月だって言うのに……ああ……暑い、熱い。 それにしても、アイツ……一体いつになったら……。 『キーンコーンカーンコーン』 アララ……授業開始しちゃったよ……。 どうするつもりなんだろ?……ホントに……。 ん?……あ……始めたな……。 (えっ!?……何だ!?……何か景色がエラく揺らいでる……もしかして……オレ……おかしくなってきた?) (イヤ……違う……おかしいのは周りの方……?) (アレッ!?……何だ……どっちが上で、どっちが下かも……分からなくなって来やがった……) 『(パキィィィィン)』 (えっ!?、今……幻想殺し(イマジンブレーカー)の音がしたような……周りの揺れも収まってる……一体何が……起こったんだ?) 「……じょうちゃん……み…うちゃん……上条ちゃん!!!」 「ヘッ!?……あっ……ハイッ!!!」 「さっきまで寝てたと思ったら、急にキョロキョロし出して……もっと授業に集中しないと、また補習ですよ~」 「「「「「ワハハハハハハ……」」」」」 「???」 「どうしたんです?上条ちゃん。変な顔して……」 「い、イヤ……あの小萌先生……今、地震みたいなモノが起きませんでしたか?」 「何を寝ボケているんですか、上条ちゃん……。もう……目覚まし代わりに前に書いたこの問題を解いてみなさいなのです~」 「あ……ハイ」 「えっ!?」 「「「「「ザワザワザワザワ……」」」」」 『カッカッカッカカッカカッカッカッカッカカ……』 「ハイ……出来ました」 「「「「「「「「「「ええぇぇぇぇ~~~~~~~~ッ!?」」」」」」」」」 「ウソやっ!?上やんがあんな問題を解けるはずがない!!!」 「明日は大地震で学園都市が滅ぶかも知れないぜよ!!!」 「上条、貴様……どんな不正をしたっ!?」 「上条君、変なモノでも食べた?」 「こんな日が……こんな日が来るなんて……先生は……先生は……今、猛烈に感動しているのです~~~~!!!」 「……オマエら、何言ってんだよ。……チョット前までならダメだったろうけど、上条さんはレベルアップしたんですのコトよ」 「この一週間、補習を受け続けてるヤツのセリフじゃないにゃー」 「ヘッ!?」 「そーや、そーや。昨日も一昨日も僕らと一緒に補習を受けとったクセに、何がレベルアップや!?」 「ちょっと待て……オレ、最近補習なんて受けてないぞ?」 「「「「「ハァ?」」」」」 「美琴と一緒に過ごす時間が無くなるから、頑張って補習や追試を受けなくても済むように……」 「『美琴』って誰や!?」 「まさか『常盤台の超電磁砲(レールガン)』こと、御坂美琴のことじゃないだろうにゃー!?」 「上条、貴様!!いつ、中学生を拐かしたっ!?」 「恋人呼び……|||||」 「やっぱり、デルタフォースはロリコンだったのね!!!」 「私のことは遊びだったって言うの!?上条君!!!」 「私の時はあんなに激しかったじゃない!?(階段から落ちそうになったのを抱き留めてもらっただけだけど……)」 「私の時はあんなに強引だったじゃない!?(不良に絡まれたのから一緒に逃げただけだけど……)」 「私の時はあんなに優しかったのに!?(転んだ時に絆創膏を貼ってもらっただけだけど……)」 「私の時も優しかったじゃない!?(買い物袋を持ってもらっただけだけど……)」 「あたしなんか……」 「私だって……」 「私も……」 「オノレはどんだけフラグを立てたら気が済むんじゃい!?」 「「「「「「「「「「ギロッ!!!!!」」」」」」」」」」(クラス男子全員の視線) 「まっ、待てッ……はっ……話せば分かる……なっ……ってか、……オマエら……何でそんなに怒ってるんだぁ~~~!?」 「良いか!!上条、そこに直れ!!!!!」 「はヒッ!?」 「コレより、上条当麻を詰問する!!!!!!!!」 「「「「「「「「「「「「「「「オオ~~~~~~~~~~ッ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」 「不幸だァ~~~~ッ!!!!!」 「ああ~……もう、散々な目に遭った……」 あの後、クラス全員vs上条当麻の詰問委員会が開かれ、吊し上げを喰らうわ。 災誤先生の授業の小テストで、満点を取ったらカンニングを疑われるわ。 お昼に美琴の作ってくれたお弁当で傷ついた心を癒そうと思ったら、なぜか弁当箱まで変わってて、ご飯と梅干し(多分神裂のお手製)とタクアンが二キレしか入ってないわ。 その上、帰り際に補習を言い渡されて、延々二時間残されるハメになるわ。 ホントにもう……散々である。 「美琴のヤツ、怒ってんだろうなぁ……。一応メールはしといたけど……。絶対怒られるよ……。……ああ、不幸だ……」 「『超電磁砲(レールガン)連発の刑』かなぁ……『雷撃の槍乱れ打ちの刑』かなぁ……。ま、まさか……『砂鉄剣・頭上リンゴ皮むきの刑』じゃないだろうな……」 「あ……アレだけは……マジで勘弁して欲しいよなぁ……」 そんなコトを呟きながら、トボトボといつもの道を歩く上条さん。 ホント、スミマセンねぇ……。 一方、その頃。いつもの自販機の前には……この世界の御坂美琴が立っていた。 彼女は今、混乱している。大混乱していると言ってイイ。 その原因は昼過ぎに上条から送られてきた一通のメールだ。 to 美琴 from 上条 sub ゴメン 美琴。ホントにゴメン。なぜか 判らないんだけど、急に補習を 言い渡された。 補習を受けなきゃならないよう なことはしてないはずなのに。 2時間ぐらい遅れるから、先に 買い物して部屋で待っててくれ。 埋め合わせは必ずするから。ホ ントゴメンな。 このメールを受け取った時、美琴は…… 「何なのよ、このメールはぁ~~~~ッ!?」 と、学校中に響き渡るのではないか?というくらいの大声で叫んでしまった。 しかも、メールの内容が問題だ。 メールに書かれている内容は、それほど大したことではない。補習を受けなければならなくなったので、待ち合わせに遅れる。というコトだ。 だが……なぜ、そのような内容のメールをわざわざ自分に送りつけてくるのか? 自分が上条を待ち伏せしているのが判っている……のではなく、約束して待ち合わせをしていることが前提……としか考えられない。 それに、メールはいきなり名前呼びで始まっている。コレではまるで、恋人同士のメールではないか? しかも『先に買い物をして部屋で待っててくれ』とまであるのだ。 『先に買い物をして』と言われても、何を買えばいいのか皆目見当がつかない。第一、上条と買い物になど行ったことすらないのだ。 そして、美琴を一番混乱させているのが『部屋で待っててくれ』の一文である。メールで言っている『部屋』とは多分、学生寮の上条の部屋のことだろう。 こちらの美琴は、上条の学生寮がドコにあるかは知ってはいるが、それは上条を尾行して知ったのであって、彼から教えてもらった訳ではない。 それに、『寮の前で待っててくれ』でも『部屋の前で待っててくれ』ではなく『部屋で待っててくれ』とある。 この内容から推察するならば、自分はもう既に上条の寮の合い鍵を持っている。 ……ということになる……のだが……。 実際には、そんなコトがあろうはずがない。 顔を合わせれば『勝負よ、勝負!!』と言うのが当たり前になってしまっているし、『上条に対する想い』があることは自覚しているが、それ以上に勝負に拘ってしまっている日常の方が、既に長くなってしまっている。 ある時までは『素直になって想いを伝えよう』としたこともあった。だが、そんなコトが思い出し難くなるほど、今は……。 そんな日々を繰り返しているのに……今日、アイツから来たメールは……まるで恋人に送るような……相手を気遣ったとても優しいメールだった。 「……あのバカ……、何でこんなメールを……」 上条の真意を測りかね、この世界の御坂美琴は混乱を抱えつつ、いつもの自販機の前で上条が通るのを待つのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一本の白き道
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/未来からの来訪者 ~4th day まこてんしょ~ チケット売り場に並んで十数分、ようやく麻琴たちはチケットを入手することが出来た。 さすが休日の遊園地、なかなかの混雑具合である。 上条と美琴はフリーパスでさっさと中に入って行ってしまったようで、周囲には見当たらない。 だが、つい先ほどゲートの付近のインフォメーションセンターに向かうのを見たのでまだそこにいるはずだ。すぐにそこに向かえば見失ってしまうことはないだろう。 しかし、麻琴はそれとは別の懸念事項を抱えていた。 「チケット代で早くも上条さんのお財布が若干ピンチに……」 自分とインデックスの分の代金を支払ったおかげで、心細くなった財布の中身。 自分の時代にいた頃は奨学金やらでお金に困るようなことは特になかったのだが、ここ数日は美琴から支給されるお小遣いのみなのだ。 まぁ、今日の分はインデックスの食費等も含め多目にもらってはいるのだが、やはり彼女の食費を考えると心もとない。 「まこと、そんな細かいこと気にしてちゃいけないんだよ」 「いや、細かくないわよ!? 結構重要なことよ!?」 「麻琴ちゃん。そろそろ行かないと本格的に上条さんたち追えなくなるんじゃない?」 コントのようなことをし始めた麻琴とインデックスに佐天が釘をさす。 佐天としても、このチケット代は予想外の出費なのだ。無駄に終わらせるわけにはいかない。 「そうだね。さっきとうまたちがあの建物に入っていくのを見たんだよ。出入りを見てた限りまだ中にいるはずなんだよ」 それに答えたのはなぜだかインデックス。私の完全記憶能力に間違いはないんだよ、と胸を張っている。 「あ、あれー? 今あたしが聞かれてたよね? 何でインデックスさんが答えてるの!?」 「早い者勝ちなんだよ」 「えぇ~……」 果たしてそういう問題なのだろうか。インデックスの答えになんだか納得のいかない麻琴である。 「よ~し、じゃあ、見つからないように建物のそばに隠れよっか」 「それがいいかも」 早速移動を始める佐天とインデックス。 「ちょっと、置いてかないでよー!」 麻琴もその後を駆け足で追いかけていった。 その頃、インフォメーションセンターに立ち寄った上条と美琴はあるサービスの説明を受けているところだった。 「と、いうわけでして、カップルの方は優遇されるサービスとなっております」 ニコニコと営業スマイルで説明をする係員の女性。 「どうする?」 「う、う~ん……」 上条に尋ねられ、ちらりと視線を部屋の一角に置いてあるストラップに向ける。 そのストラップはこの遊園地のこのサービス限定の代物のペアストラップ。それもラヴリーミトンとのコラボ品のゲコ太ストラップだった。 限定ゲコ太ストラップ。美琴からすれば喉から手が出るほどにほしい。ちょうど上条と美琴は、正真正銘のカップルでもある。それなのになぜ美琴が即決できずにいるかといえば…… 「あ、あの。本当にキ、キスしてる写真撮らないとダメなんですか?」 「はい。あくまでカップル限定ですので、ご兄妹などの関係じゃない証拠としてお願いしています」 「うぅ……」 そう、これなのだ。カップルである証拠としてキスシーンの写真を撮られる。これが美琴を悩ませていた。 美琴だって上条とキスがしたくないわけではない。むしろ、キスをしたいくらいだ。 何せ告白された日以来、一度も上条と美琴はキスをしていない。いい雰囲気になりかけてもそれは人前だったりでできなかった。 でも、だからといってそういう雰囲気になってるわけでもないのに第三者の前でキスをする、というのは美琴にはいささかハードルが高すぎた。 目の前のハードルを飛び越えないと気がすまない美琴といえども、さすがに恥ずかしすぎるのだ。 ならば、限定ゲコ太ストラップが諦められるのかといえばそうでもないし、そもそもキスをするいいチャンスなのでは? という思いもあって決断できない。 でも、だけど……美琴の中で思考が堂々巡りを繰り返す。やがて迷いに迷った思考は迷路の出口にたどり着く。それは彼女の中にあった最も大きい欲求に沿うこと。 カップルとして上条と行動したい、上条とキスをしたい、ということだった。 「する」 ぼそりと美琴がつぶやく。 「え?」 「と、当麻とキス…する。当麻は……イヤ?」 「イヤ…じゃない」 潤んだ瞳で上目遣いで見つめてくる美琴に、上条が逆らえるわけもなかった。 「は~い。じゃあ、準備は出来てますので、彼女さんから彼氏さんのほっぺにチュってしちゃってくださいねー」 「わ、私からするんですか!?」 頬にするというのは、他人の前でやるには幾分かハードルが下げられた美琴ではあるが、自分から上条にキスをしなければならない、という新たな壁が立ちはだかった。 普段なら、美琴からキスを、しかも人前でやるなんてことは不可能だっただろう。 しかし、美琴の頭はすでに上条とキスをしたいという欲求に染められていた。 「それではいつでもどうぞ~」 「と、当麻……」 どこか熱にうなされたような表情を浮かべる。 上条の方が背が高いので必然的に爪先立ちで、そして体重を預けるように上条の肩に手を置き、頬に自分の唇を軽く押し付けた。 頬に伝わる感触に上条の顔も一瞬で真っ赤に染め上がる。これは、思っていた以上に恥ずかしいのかもしれない。 「はい、OKです。じゃあ次は彼氏さん。彼女さんのおでこにチュッとやっちゃってください」 頬とは言えど、美琴からキスされたためか、上条の思考もすっかりとろけてしまっていたようで、言われるがまま、美琴に向き合い、前髪をかきあげる。 「いくぞ……」 「ん……」 上条がゴクリとつばを飲み込む。なんだかその音がやけに響いた気がした。 美琴は顔を上げ、ぎゅっと目をつぶっている。その顔は真っ赤で目じりに涙がわずかに滲んでいた。美琴も恥ずかしいのだろう。 しかし、その顔がまた可愛くて、上条の心臓がバクバクとやかましく鼓動する。 「ひぅ……」 額に感じる上条の温もりに、くすぐったいような心地よいような感覚が全身を駆け巡り、変な声が出てしまった。 「は~い、OKです。では、プリントアウトしますので少しお待ちくださいねー」 恥ずかしさで固まっている二人をよそに、係員はテキパキと進めていく。顔がにやけ気味なのはこの二人を見ていれば仕方ないのかもしれない。 そんな様子を入り口付近からこっそり覗いていた3人は…… 「うわぁ~。なに、なんなのこれ? なんか凄くキュンキュンするんだけど。あぁ、もう! 御坂さんホント可愛いなぁ」 「甘い、甘すぎるんだよ。うぅ、なんか胸焼けしてきたかも」 「慣れてると思ってたんだけど……、こういう初々しい反応見せられると、なんかこう!」 三者三様にすっかり上条と美琴のぽわぽわオーラにあてられてしまっていたようだった。 係員からカップル優待パスを受け取り、ついでにプリントアウトされたキスシーンの写真も渡された。 さらには携帯に画像データまで送信してくれるというおまけつきだった。上条には美琴から頬にキスされている画像を、美琴には上条から額にキスされている画像を送信してもらった。 美琴は恥ずかしがりながらも早速待ち受け画像にし、何度もその画像を見ては嬉しそうに微笑んでいた。 そして実は上条もこっそり待ち受け画像にしていたりする。恥ずかしいのでそんなことを口には出せないが。 「さて、優待パスももらったし、美琴はどこか行きたいとこあるか?」 「ふぇ!? そ、そうね。あそこはどう?」 あわてた様子で美琴がとある施設を指差す。 また、先ほどの上条におでこではあるがキスされた画像を見てにやけていたので、ろくすっぽ確認もせず適当に指差したのだが、それがいけなかった……。 美琴が指差した先にあったのは、学園都市の技術の粋を集めて作られた『お化け屋敷』であった。 「へぇ~。お化け屋敷か」 「お、お化け屋敷……」 美琴の顔がサーっと青ざめる。 「あれ? もしかして苦手なのか? だったら別の……」 「だ、だだだ大丈夫よ!! 別に苦手じゃないわよ! こ、怖がってなんかないんだからねっ! 早く行きましょ!」 上条に弱いところを見られたくないと思ったのか、美琴は上条の腕を引っ張ってずんずんと進んでいく。建物が近づくに連れ歩幅が少し狭くなり、怖くない、怖くない、などと小さくつぶやいている。 「とうまとみこと、あそこに行くみたいなんだよ」 「え~とあれは……お化け屋敷みたいだね」 インデックスが指し示す施設を佐天がパンフレットで調べる。 「お、お化け屋敷……」 じりじりと麻琴が後ずさる。 「どうしたの、まこと?」 「い、いやあのね、別にね、その……」 視線を泳がせ、おどおどと挙動不審な麻琴の様子にインデックスが首を傾げる。 「はっは~ん。麻琴ちゃん。お化け屋敷、苦手なんでしょ」 「なななな、なんのことでせうか!? 上条さんがお化け屋敷を苦手だなんてそんな子供みたいなことあるわけがないじゃないですか!!」 「まこと。なんだかとうまみたいな口調になってるんだよ」 じとーっと麻琴にいぶかしげな視線を向ける。 「さっ、御坂さんたち見失わないうちにあたしたちも行こっか」 しかし、そんな空気もなんのその、佐天は麻琴を腕を引っ張るとそのままずるずると上条たちの向かったお化け屋敷に引っ張っていった。 「るるる、涙子さん。別に入らなくてもいいんじゃない!? 外で待ってれば!!」 「インデックスちゃんはこういう所は初めてなんだから、楽しんでもらわないとね~。待ってるだけじゃつまらないよ」 麻琴の必死の説得も佐天に一蹴されるのあった。 佐天の顔が楽しそうな笑みを浮かべていたのは見間違いではないだろう。 「そうだけど、そうだけども、そうですけれどもの三段活よ…あぁぁ、待って待って待ってぇ~。そ、そうだ、インデックスさん。あたし困ってる、今凄く困ってるわよ。インデックスさんシスターでしょ。す、救いの手を……」 うるうると涙目でインデックスに助けを求めるあたり、相当追い詰められているらしい。 「そ、そうだね。るいこ、まことが嫌がってるんだよ。無理強いは……」 「インデックスちゃん。もう一度よく麻琴ちゃんを見て?」 佐天に言われたとおり、もう一度麻琴の様子を観察する。 お化け屋敷に行くのが本当に嫌なようで、溢れんばかりに涙をためて、両足を突っ張って精一杯抵抗しているようだ。すがるように潤んだ瞳でこちらを見つめている。 その視線を捉えた瞬間、インデックスをなんともいえないような感覚が襲った。ゾクゾクと何かが背筋を這い上がるような感覚。もっとその表情を見たいという嗜虐的な思い。 (な、何を考えているのかな私は! だ、ダメなんだよ。迷える子羊を救うのがシスターとしての役目なんだよ! こんな感情に流されちゃダメ。まことを救わなきゃ) 思いに飲み込まれないよう、気を引き締める。 さぁ、やめるように言わないと。 「まこと。おばけやしきがどんなものかは知らないけど、苦手だからって逃げてちゃダメなんだよ。きっとこれはまことに与えられた神の試練なんだよ」 まるで聖母のように、慈愛に満ち溢れた笑顔でインデックスはそう言ってのけた。 慈愛の慈の字もないようなことを。 「そ、そんな。待って待ってよぉ~。あぅぅうう」 普段はお転婆な麻琴のすっかり弱気な様子に、インデックスは何かに目覚めてしまったようだった。 涙目の麻琴をそのまま佐天とインデックスが引きずっていったのは言うまでもない。 「ひぅ!?」 「ふにゃ!!??」 お化け屋敷に入ってから、美琴は上条にぎゅっと抱きつき、ずっとこんな調子だった。 ほんのちょっとした仕掛けでも、びくっと身体をこわばらせているのが上条にも伝わってくる。 そんなに怖かったら無理しなければよかったのに、と思う上条ではあるが、強がってても怖がりな美琴がまた可愛くて、これはこれで捨てがたい、なんて思ってたりもする。 「美琴。大丈夫か?」 「だだだ大丈夫よ。こここ、怖くなんてないわよ、こんな子供だまsふにゃっ!?」 ぷるぷると震えながら上条の胸に顔をうずめて抱きついてくる美琴。 怖くない、怖くない、怖くない、と自分に言い聞かせるようにつぶやいているのが保護欲をかきたててたまらない。 (あぁ、やばいやばいやばい。これは違う意味で上条さんピンチですのことよ。なんだよ、この可愛い生き物は。正直もうたまりません) 「と、当麻。離しちゃヤだよ……。そばに…いて……」 今にも泣きそうな顔で、上目遣い。震える声でそばにいてほしい。 (あぁぁぁぁ、俺は、俺はぁぁぁぁっ!!) 上条の本能と理性の世紀の大戦は、お化け屋敷から出るまで続いたのだった。 結局、勝敗はかろうじて、タッチの差で理性が勝ったようだ。後数メートルお化け屋敷が長ければどうなっていたかわからないレベルの僅差の勝利だったらしいが。 佐天、インデックス、麻琴の3人は…… 「はぁ。まさか最初の仕掛けに驚いて気を失っちゃうなんてね~」 と、意識をはるか彼方に飛ばしてぐったりしている麻琴をおぶる佐天がため息をつく。 少しからかってやろうと思ってたのだが、まさかここまで苦手だったとは予想外だった。 どうやら、麻琴は美琴以上の怖がりだったらしい。 「それに、インデックスちゃんはなんか変な方に興味持っちゃってるし、お化け屋敷は失敗だったかなー」 元々魔術の世界で生きていたインデックスにとっては、幽霊の類などのオカルトはむしろ馴染み深い。それを偽者だとしても科学で再現されていたりするのが面白いのだろう。よく分からない用語を言いながら興味深そうに眺めている。 「まー。楽しんでるみたいだしいっか」 持ち前の前向きさで佐天も佐天なりにお化け屋敷を楽しむことにしたのだった。 お化け屋敷から出た上条と美琴が続いてやってきたのは、遊園地の花ともいえるジェットコースター。 なんでも学園都市の技術をこれでもかとつぎ込んだ、外の世界とはかけ離れた代物だ。 「なんだか上条さんは嫌な予感がするのですが……」 なぜか途中で途切れているレールに視線を向け上条が顔を引きつらせる。 上条の視線の先にちょうどジェットコースターが向かってきた。コースターはそのまま速度を緩めることなく途切れるレールに向けて突っ込んでいく。 当然、レールがなければそのまま慣性に従いぶっ飛んでいくわけで…… ギュオォォォと激しい音を立てて錐もみ状態で空を飛んでいくコースター。数十メートルほど空を飛び、その先のレールに再び着地し、何事もなかったかのようにそのまま走っていく。 これはすでにジェットコースターと呼べるものなのだろうか。 「大丈夫? 顔色悪いわよ?」 「なんというか、途中でいきなり止まって落下したり、レールを支える支柱がはずれたりする不幸が来るんじゃないかとな……俺だけならまだいいが、他の人を、美琴を巻き込んじまったら……」 誰かを巻き込みたくない、と口では言ってはいるが、実は単に怖いのを誤魔化しているだけなのには気付かれてはいけない。 「あぁ、大丈夫よ。いざとなったらアタシが磁力で無理矢理レールに本体くっつけるから」 事も無げに言う美琴。 さすがレベル5。これなら万が一があっても安心だね! なんて思ったりする上条ではあるが、それはイコール逃げられないということ。 「まさかアンタ怖いの?」 「ま、まさか何を言ってるんでせうか、このお嬢様は。上条さんが怖い? そんな幻想はぶち殺してやりますよ!」 「じゃあ、問題ないわね。さっさと行きましょ」 先ほどのお化け屋敷での怖がりようはどこへやら、うきうきと上条の手を引いて入り口に向かっていった。 なお、佐天とインデックスは気を失った麻琴を介抱するため、コースターの出口が見える場所で休んでいたらしい。 いくつかの遊具を堪能した上条と美琴は、園内のレストランに移動していた。 時間もちょうど昼時で、いったん昼食兼休憩をすることになったからだ。 食事はなかなかにおいしかった。色々とおしゃべりもできたし満足のいく昼食だった。 しかし、二人の表情は晴れやかなものではない。 その理由は、店員が食器をさげるときに持ってきたカップル優待サービスの特典らしい目の前のコレ。 大き目のグラスに注がれた飲み物、ただし2本のストローが刺さっているアレである。 戸惑いと恥ずかしさで上条も美琴も固まってしまっている。 「ど、どうする?」 緊張した面持ちで上条が口を開く。 「どうするって……その、せっかくのサービスだしさ、あの……」 顔を真っ赤にして答える美琴。 それでも決定的な言葉は口に出来ない。それは上条も同じこと。 互いに答えは決まっている。そもそも飲まないなんて選択肢は存在しない。行動に移せないのは恥ずかしいだけなのだ。 先ほどのキスも大概だが、まだ見ていたのは係員の女性一人だけだった。しかし、今度は公衆の面前である。そこでこんなものを二人で飲んでたら、俺たちバカップルですと宣伝しているようなものだ。 どうしたものかと悩む二人だったが、やがて意を決した美琴がパクリとストローをくわえた。 「ん!」 上条に早くと目で訴える。 恥ずかしさで顔はこれでもかというほど真っ赤だ。 (よ、よし。男、上条当麻、いきます) 大きく深呼吸して、上条もストローをくわえる。 すぐ近くに感じる互いの顔。 (近い近い近い~!) ドキドキバクバクと暴れまわる心臓の鼓動に周囲の音さえ聞こえなくなるほどであった。 そんなバカップルな出来事をよそに、こっちはこっちで違う意味で盛り上がっていた。 場所は上条たちがいる所の近くにある別のレストラン。 窓越しに上条たちを見れるので見失うことがない絶好のポジション。 「おかわりなんだよ!」 顔を上げたインデックスが皿を隣の塔の上に乗せる。 その高さはすでにインデックスの身長を超え積まれている。 「大食いチャレンジやっててくれて助かったわ……」 「あは……は、なんかあたし見ちゃいけないものを見てるんじゃないかな……」 慣れもあり、黙々と自分の分を食べる麻琴と、インデックスの食いっぷりに圧倒される佐天。 他の客や店員も茫然自失といった風体だ。 すでにチャレンジ達成の目標数はとっくの昔に超えている。それでもインデックスは止まらない。 むしろ一般的な程度の大食いチャレンジなど、インデックスにとってはまさに言葉どおりの意味で朝飯前のことだ。この程度では止まりはしない。 「おかわりなんだよ! 早くしてほしいかも!」 また皿の塔が少し高くなる。 もはやその場にいたものは笑うしか出来なかっただろう。 結局、店長が泣いて許しを請うまでインデックスは食べ続けた。 この日、この店は開店以来最高額の赤字を計上したらしい。 時間は流れ、空が茜色に染まり始めた頃、上条と美琴は大観覧車に来ていた。 昼食後も色々と遊具を回りデートを楽しんだ二人が最後の締めとして選んだのがここなのだ。 ゆっくりと高度を上げていくゴンドラ。すでに地上を歩く人々はまるで蟻のように小さく見えてしまう高さだ。 「きれい……」 徐々に夕陽に染められていく学園都市の町並みに魅入られる。 自分たちの住んでいる場所なのに、なんだかまるで別の世界のようだ。 「そうだな……」 そう返す上条が見ているものは風景ではなく、外を眺める美琴の横顔。 なんとなく美琴の顔を見たら視線がはずせなくなった。はずしたくなくなった。ずっと見ていたい、独占したい。 「……本当に、綺麗だ」 「当麻?」 いつもと違う雰囲気の上条の言葉に違和感を感じて視線を移す。 そこにいたのはとても優しげな瞳で自分を見つめる上条。 「美琴……」 上条が自然な動きで美琴の隣に移動する。 美琴はそんな上条の様子を少し不思議そうな表情で見つめている。なんだろう、と小首を傾げてるその仕草が、その表情が、愛しくてたまらなかった。 「美琴……」 もう一度優しく彼女の名を呼ぶ。 綺麗な夕焼けがそうさせたのか、二人きりという現状がそうさせたのか、それともそれらを含め全てが要因か。 「どうかし―――」 暖かい感触に口をふさがれ、美琴はそれ以上言葉を紡ぐことは出来なかった。 夕陽に照らされるゴンドラの中で二つの影は…… 「あぁ~! 前のが邪魔なんだよ!! いいとこなのに!!!」 「キスですか、キスなんですか御坂さん!! あぁもうなんで、こんないいときに前のゴンドラが邪魔するのー!」 上条たちと1つ挟んだゴンドラに乗るインデックスと佐天が、恨めしげに視線を隠すような角度に来た前のゴンドラを睨みつける。 べたーっと窓に張り付かんばかりの二人の剣幕に、前のゴンドラに乗るカップルが引きつった表情を浮かべているのがこちらからもはっきりと見える。 「ちょ、ちょっと、インデックスさん涙子さん落ち着いて! 前の人なんか変な目でこっち見てるから!!」 前の見知らぬカップルの視線にいたたまれなくなった麻琴が二人の暴走を止めようと声をかける。しかし、興奮状態にあるのか全く聞いてないようだった。 「早くどくんだよ! とうまとみことのキスシーンが!!」 「誰なの、隣だとバレるから1つ離そうって言ったのはー!!」 「インデックスさん、だから落ち着いて、暴れないで! それに涙子さんです。離そうって言ったのは!」 今にも暴れだしそうなインデックスを後ろから羽交い絞めにして拘束する。 影からこっそり両親の初デートを見守ろうと思ってただけだったはずなのに、何故こうなってしまったのか。何がいけなかったのか。どうしてこの二人に振り回されているのか。 分からないことだらけの麻琴であるが、1つだけ分かっていることがあった。それは…… 「とりあえずこの状況は、不幸……よね」 己の不幸体質は健在だということだった。 観覧車から降りた上条と美琴。 二人の顔が赤く染まっているのは、夕焼けに照らされているという理由だけではないだろう。 その少し後ろに、肝心のシーンが見れなかった苛立ちから地団太を踏む佐天とインデックス、そしてどこかげんなりした様子の麻琴がいたのだが、バレなかったのは上条たちがどこか上の空だったからに違いない。 なお、帰宅後、上条は散々インデックスにからかわれ、美琴も後日佐天に細かく追及されるはめになるのだが、幸せで胸がいっぱいな二人は、そのような少し不幸な目にあうとは思いもしていなかった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/未来からの来訪者
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/素直になったら 子供 「御坂さーん、上条さーん」 ここは、美琴がゲームに負けたファミレス。 そこへ来た上条と美琴に声をかけたのは初春飾利。 佐天、白井と片方の椅子に座っている。 机を挟んで反対側の椅子に二人は座った。 「当麻を連れてこいだなんて、どうしたのよ?」 座って早々美琴が尋ねた。 金曜日だった昨日、佐天からのメールで 『上条さんといっしょにいつものファミレスに来てくれませんか?』 ときた。 上条に連絡を取ってみると『暇だしいいんじゃね?』と反応があったためやって来たのだった。 不幸の始まりとも知らずに… 「今から話しますから。上条さん、私佐天涙子です」 「初春飾利です」 「あの時白井と一緒にいた二人だな」 「「はい」」 とりあえずの自己紹介をした後に本題に入る。 「さて今日呼んだ理由ですが、初春?」 「えぇ、佐天さん」 初春と佐天はお互いに見た後、一息ついて 「「馴れ初めを教えてください!」」 「「はぁあああ!?」」 いきなりのことで上条も美琴も驚いて叫んでしまった。 「出会いはいつごろですか?」 「恋心を自覚したのは?」 そんなことはおかまいなしに初春佐天の柵川中コンビは質問攻めにする。 「二人とも落ち着きなさいな」 ひとまず落ち着き、尋問タイムが始まる。 「お二人の出会いはいつごろですか?」 早速、答えづらい質問が来た。 美琴は覚えているにしても、記憶喪失である上条は自販機前からしか知らない。 そのことを気遣い、美琴は大まかに話し始めた。 「初めて会ったのは夏休み前ね。私が不良に絡まれた時…」 と初めて出会った時の話をし始めた。 「なんか助けに来たのよね」 「でも、御坂さんなら大丈夫ですよね?」 「まあね。それで何かムカついたから電撃浴びせたんだけど…」 「上条さんだけ無事だったとか?」 「ご名答」 この話がまた、上条への興味を抱かせることになる。 「上条さんレベルいくつですか?」 「0だけど」 「「え?」」 上条の解答にキョトンとする初春と佐天。 レベル0なのにレベル5の電撃くらって無事なんてありえない。 そう考えた二人は質問の対象を上条に変える。 「どうしてレベル0の人が御坂さんの電撃を受けて無事なんですか?」 「それはな、俺の右手は幻想殺しといって、異能の力なら全て打ち消すんだよ」 「「幻想殺し?」」 「あぁ」 いまいち信用していなさそうな二人に証拠を見せようと 「美琴、少しだけビリっとしてくれないか?」 「私は別に構わないけど、いいの能力教えて」 「お前の友達だしな。信用できるだろ」 確かに、この二人なら信頼できると思った美琴は指の間に電気を通す。 電気を確認した上条は美琴の頭に手をのせた。 「うわ、本当だ」 始めてみる幻想殺しの効果に二人はただ驚いていた。 しかし一名ほど様子がおかしな人がいた。 「お姉さま、顔が赤いですわよ?」 「だって、当麻に触れられてると思うと///」 付き合い始めて日が浅いためか、美琴にはまだ耐性がついていなかった。 そしてもう一人も。 「そんなこと言うなよ、俺まで照れるじゃねえか///」 今まで平気でやってきたことでも、好きな美琴に言われたせいで意識してしまった。 「それでも、手は離さないんですね」 「「///」」 「二人ともうぶですね」 上条に触れられて真っ赤になっている美琴にとって、ふにゃけるのは時間の問題だった。 「ふにゃぁ」 ぽふっと力が抜けた美琴は上条によりかかった。 幸せそうな顔をして。 「ちょっとコーヒーでも取ってきますの」 「あれ、白井さんコーヒー飲むんですか?」 「桃色空間見せつけられて、苦いものでも飲まないとやっていられませんの」 白井の目の前には、上条と美琴が寄り添っていて甘い空気を醸し出している。 上条の右手はいつの間にか美琴の肩においてあった。 「それにしても、こんな御坂さん始めてみました」 「私たちといる時よりも幸せそうだね」 「「私も彼氏欲しい」」 見ている方も甘くなりそうな雰囲気を出している上琴に、羨ましそうに見つめる初春・佐天という構図ができあがっていた。 ちなみに白井は、取って来たコーヒーを無言で飲んでいる。 (うぅ、ブラックなのになんだか甘いですの) 桃色空間から帰還した上琴に、佐天から一つの提案が出された。 「ちょっとゲームしません?」 「ゲーム?」 「この前のジュースあてるやつです」 「あ、アレをするの?」 「?」 美琴が上条にキスをするきっかけとなったゲーム。 そのことを思い出し、若干顔を赤くする美琴に何の事だか分かっていない上条。 「どんなゲームなんだ?」 「ジュースを2種類混ぜてくるので、それを当てるんです。 間違えたら罰ゲームですけどね」 うっ、と上条はつまった。 お馴染みの不幸のせいでゲームに勝つことはあまりないし、罰があるとなおさらだ。 「こんかいはペアでやりましょう」 「ち、因みに負けたペアはなにをするの?」 この前よりもなんだか張り切っている初春と佐天。 それに対し、不幸な予感しかしていない上琴。 そうですねえと佐天はメニューを広げて、 「これを飲んでもらいましょう」 と指を指した先には… 「「ラ、ラブラブドリンク…」」 こんなの恥ずかしすぎて飲めないと余計に赤くなってしまった。 「勝った方には何かあるのか?」 「そうですね、冷やかす権利がつくぐらいですかね」 悪魔で罰ゲームだけが目的であり、勝った方への特典はないようだ。 「仮にそっちが負けたら女の子同士で飲むことになるけど、いいのか?」 「「別にかまいませんけど?」」 この二人ってそういう仲なの?と一瞬思ってしまいそうだがそうではない。 二人は必ず勝てると確信している。 なぜなら、前回同様美琴は顔を赤くしてショートしそうだし、上条も似たような感じがしたからだ。 「分かった」 「ちょっと当麻、やるの?」 「ああ、この二人は平気なんだ。 カップルである俺らが恥ずかしがってちゃダメだろ」 いや、そこは普通恥ずかしがるべきですの、と白井は思った。 結果、上琴は負けた。 「それじゃぁ注文しますね。すみませーん」 佐天は早速ラブラブドリンクを注文した。 運ばれてくるまでの間、上琴は顔を赤くしたまま無言で、初春と佐天はニヤニヤしていた。 「お待たせいたしました。こちらラブラブドリンクになります」 運ばれてきたドリンクは上琴の前に置かれた。 明らかに一人分ではない大きさに、ストローが二つ。 しかも、その二つのストローはハートの形を描いていた。 「さ、御坂さん上条さんどうぞ」 「「うぅ///」」 恥ずかしさで、なかなか二人ともストローを咥えようとしない。 しかし、ゲームにのったのは自分だと上条は決心し、ストローに顔を近づけた。 「御坂さんも早く!」 美琴はやはり恥ずかしさのせいで決心がつかず俯いている。 その時初春に名案が浮かんだ。 「佐天さん」ゴニョゴニョ それを聞いた佐天は早速実行した。 「じゃぁ私が相手しようかなぁ」 「さ、佐天さん!?」 佐天の言葉に美琴は焦りだした。 「佐天さん、ずるいです!私が相手します!」 「ちょ…」 「私!」 「私です!」 初春と佐天が上条の相手をめぐって言い争いを始める。 「だ、ダメ!当麻は私の彼氏なんだから、私がやるの!」 美琴の言葉を聞いた二人はニヤリとする。 「それでは改めて、どうぞ」 言い争いなどなかったかのようにしている二人に美琴はやられたと思った。 でも、言った以上やるしかない。 ようやく美琴は決心してストローを咥えた。 上琴は恥ずかしさで視線をそらしつつも、ジュースを飲みだした。 「ダメですよ。ちゃんと見つめ合わないと」 ちょっと不幸かもと思いつつ、二人は見つめ合った。 しかし、それがいけなかった。 (何なんですかこの可愛い生き物は!?) 顔を赤くし瞳を潤ませながらじーっと見つめてくる美琴のせいで上条が少しおかしくなったのだ。 ジュースを飲み終えて、ストローから離れた途端、上条が美琴を抱きしめた。 「ちょ、ちょっと当麻」 いきなりの上条の行動に驚く美琴。 「お前が可愛すぎるのがいけないんだぞ」 「か、可愛いって///」 これまたいきなりすぎる上条の可愛い発言に美琴は恥ずかしながらも嬉しくなった。 「当麻も、かっこいいよ」 「美琴」 互いの距離がどんどんなくなっていき… 先ほどよりも甘い桃色空間は発生させている上琴の反対側では… 「ね、ねえ初春」 「なんですか佐天さん」 「見てるこっちが恥ずかしくならない?」 「同感です」 自分たちがやっているわけでもないのに、顔を赤くして俯いていた。 それに対し、一人だけほぼ無言でコーヒーを飲んでいた白井。 内心では、 (る、類人猿めぇえええええ!) と、上琴がファミレスに着いた時から実は思っていた。 しかし、桃色空間発生中の上琴に声をかけてきた人物がいた。 「二人とも、いつからそんな関係になってたの?」 聞き覚えのある声にビクッとした二人は恐る恐る声の発生源を見ると、 「やっほー」 美琴の母親である御坂美鈴がいた。 それに、もう一人。 「あらあら、当麻さんは中学生が好みだったんですか」 上条当麻の母、詩菜も立っていた。 「「か、母さん!?」」 「美琴ちゃんに当麻君、いつからなのか教えてくれない?」 ここから、美鈴&詩菜による質問攻め(尋問)が始まった。 因みに、白井、初春、佐天は隣のあいているテーブルに移動した。 「2週間ぐらい前」 「ふ~ん、つまり2週間でバカップルになったんだ」 「「バカップルじゃない!!」」 「こんな人がいるところでキスしてたのに?」 「「うっ」」 「当麻さん、人前でのキスはオススメしませんよ?」 「だってな、その…」 「何ですか?」 「美琴以外見えなかったというか…」 「うわぁ」 「あらあら」 「告白したのはどっちから?」 「一応俺からです」 「何て言ったの?」 「ストレートに好きだって」 「美琴ちゃんは何て返事したの?」 「い、言うの?」 「ここまで来たらねえ」 「その、思わず抱きついちゃって…」 「あらあら、言葉じゃなくて行動で返事をしたのですか」 「美琴ちゃんやるぅ~」 「じゃぁ、どこまでやったの?」 「「ぶっっっ!!」」 「親が聞くことじゃないでしょ!!」 「その反応はもうやっちゃった?」 「「やってない!!」」 「そこまで本気にならなくてもいいのにぃ」 と、母親二人による攻撃に上琴はタジタジだった。 「これぐらい聞けばいいかなぁ」 「あらあら、詩菜さん的にはこれで満足ですか?」 「詩菜さんは何かあります?」 「えぇ、一つだけ」 今までのからかう表情から一変、上条詩菜の表情が真剣になった。 「当麻さん、これからどうするんですか?」 「どうするって?」 「まさかある程度付き合ってぽいなんてしませんよね?」 「するわけないだろ」 詩菜の言葉に、言っていいことと悪いことがあるだろと上条は思った。 しかし、詩菜にとっては真剣そのもの。 この子は上条刀夜の息子でフラグ体質を引き継いでいる。 いつ他の子が言いよってくるかわからない。 自分のような心配を美琴にしてほしくなかった。 「他に魅力的な女の子が言いよってきても?」 「美琴より魅力的な女はいない」 「ほぉ」 「えっ///」 「ずっと美琴さんといると?」 「あぁ。一生美琴を守り続ける」 「そうですか。なら大丈夫なようですね」 息子の言葉に満足した詩菜はふと周りを見た。 すると、3名ほど顔を赤くしていた。 「か、上条さん、それって」 「ぷ、プロポーズですよね?」 上条のセリフをプロポーズと認識した初春と佐天。 そしてそのプロポーズをされた美琴。 「ぷ、プロポーズ!?」 「///」 「そんなつもりは…」 「やっぱり美琴ちゃんは捨てられるんだぁ」 自分の発言をプロポーズと言われ、焦りだした上条を美鈴がからかう。 しかし、その美鈴の言葉に反応したのは美琴であった。 「当麻、私捨てられちゃうの?」 「美琴まで!?」 泣きそうな表情で上条を見つめる美琴をギュッと抱きしめ、 「今はまだ早いだけで、捨てるなんてことは絶対にしないから安心しろ」 「うん」 「俺はお前も、お前の周りも一生かけて守る」 「うん」 「美琴が嫌だって言ってもな」 「そんなこと言うわけないじゃない…バカ」ギュッ 「初春、やっぱりこれプロポーズだよね?」 「ですよね、私も言われてみたいです」 一気にレベルが上がった天然バカップルに、それを見守る母親二人。 羨ましそうに上琴を見つめる柵川中コンビに、お姉さまオーラと戦っているツインテール。 「やっぱり、刀夜さんとの子供ですね」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/素直になったら
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/育児日記 夏祭り 花火が夜空を彩る。 1発目の音に驚き、美琴にしがみついたインデックスは、2発目で空に花開く光に言葉を無くし、4、5発目からはしゃぎだした。 その後、3人は近くのベンチに座る。 「ぱーぱ!! どー!!」 「うん? ああ、大きな音だな」 「まーま!! どー!!」 「ん? あれはね、花火っていうのよ」 「はーび?」 「そう、花火」 「はーび!! どー!!」 「…………飲み物買ってくるよ、美琴、なにがいい?」 「じゃあ、ヤシの実サイダー」 「了解」 上条の背中を見送る。 そして、思うのだ。 (こんぐらいで舞い上がっちゃうなんて、末期ね) 次々と夜空に大輪の花が咲く。 ひとつひとつの花が咲くたびに、上条との日々が走馬灯のように浮かんだ。 『連れがお世話になりましたー』『あーまたかビリビリ中が『で、何だコイ『だから泣くなよ』けは、きっとお前は誇『またな、御坂』らさ、一体何をやれば恋人っぽ『―――――』 ックスと風斬『探したぞ、ビリビリ』んだ!お前に怪我なんてして『そいつらと少しずつ変えていけばいいんだ。もちろん、俺も協力する』『お? 殺気!?』『しかし、そっかー。御坂にとって俺との出会いは宝物かー』しもし。恋人より重たくなってますよ御坂さん』イザーが欲しい!! お前だけが頼りなんだ! 任せられるか!?』ら最後の笑いが超胡散臭かったからッ!!』んだ。上条当麻っていうのは、記憶のあるなしぐらいで揺らぐものじゃないんだよ』えると、助かる。記憶喪失だなんてさ、変に気『……ダメ?』(まだ、やるべきことがある)り顔をしている俺だって今何が起きてい『必ずこの失敗を取り戻す。それをやるまでは帰れな『はいはい幻想をぶち殺す。ゲンコロゲンコロ』『頼むよ話が進まない』ットでややこ『頼む。あいつら「二人」を助けるためにお前達の力を俺に貸してくれ』『俺が、そうしたいからだ』 ……。 (…………骨抜きじゃん) つい苦笑する。 ちょっと悔しい。 これでは完全白旗武装解除平身低頭の完敗だ。 そんななか、この幸福が偶然転がりこんで来た。 もし他の人が先に彼に出会っていたら、まず間違いなく今の生活はない。 それをオティヌスが来たことで思い知らされた。 インデックスが元に戻るまで、上条の寮が修繕されるまで、常盤台の寮が完成するまでの生活。 できるだけ長くこのままでいたい。 そのためには、この想いを上条に受け入れてもらうしかない。 (…………やっぱり、恐いよ) この生活が大事だからこそ、 彼が拒絶することを恐れる。 おそらく、失敗したら、今の幸せを失うだけでなく、以前の関係に戻ることさえかなわない。 その頬に、小さな手が添えられる。 「まーま、だーぶ?」 この子にも、不安が伝わってしまったか。 美琴は、そっとインデックスを抱き締める。 「ありがとう、インデックス。ママ、頑張るね」 その彼女の様子を見て高台を去る影が1つ。 雷神トール。 彼の笑みには力がない。 そこに、声がかけられる。 「やぁ、落ち込んでいるな、負け犬」 カッチーン 「なんだよ、見てたのかよ。性格悪いぜ」 上条クンにも嫌われるぞ、と付け加える。 元魔神はまだ姿を現さない。 「ふっ、まさに負け犬の遠吠えだな。今の状況を受け入れてしまっている貴様に、弁明の余地はあるまい?」 「ぐっ…………でも、わざわざ美琴ちゃんを困らせたくはないし」 「なんだ、うじうじと、貴様らしくないな」 トールは苦虫を噛み締めたような表情でうつむく。 ふん、とため息をついた後、オティヌスは言葉を続けた。 「なぜ、悩ませてはいけない?」 肩が震える。 「別にいいじゃないか。こっちも悩んで苦しんでるんだ。向こうにもそれぐらいしてもらわないと、割りに合わん」 そこで一端切り、それに、と彼女は続けた。 「それに、うまくいった後、それでよかったのだと、笑えるほど幸せにしてやればいい」 少し考えて、はっ、とトールは苦笑する。 「…………強いな」 「当然だ私を誰だと思っている」 木の影から出てきたのは、猫にまたがったオティヌスだった。 トールは歩くスピードを下げる。 「で、そっちはまだ気持ちを伝えられていないようだけど?」 「貴様とは違う。勝てる状況を作ってからだな」 「…………じゃあ、あっちは伝えないでいいのか?」 トールは立ち止まる。 「体をもとに戻せば戻すほど、寿命は減ってるんだろ?」 しばらく、魔神も無言だった、が、ゆっくり、誰かに言い聞かせる。 「同情で勝ち取るものではないだろう?」 「……ホントに、強いよ、アンタ」 420円飲まれた。 「…………てめぇ」 睨み付けても、自販機はうんともすんとも言わない。 おかしいと思ったのだ。 不幸な自分に、小銭がちょうどあるなんてことがおこったのだ。 嬉々として小銭をいれたらこの様である。 しかし、野口さんを召喚するのは癪だ。 上条はキョロキョロと周囲を見回すと、 「チェイサー!!」 と回転蹴りをはなった。 ちょうど2本出てくる。 1本ヤシのみサイダー、もう1本がガラナ青汁。 やはり、上条は不幸なようだ。 上条は花火を見ながら戻る。 その道はちょうど、美琴と出会い、警報を鳴らす自販機から逃走した時の道だった。 当時の自分と美琴の姿がぼんやりと浮かぶ。 『愉快に現実逃避してないでジュース持ちなさいってば』 「なんか、ずいぶん昔のように思えるなぁ」 一歩歩むごとに、彼女の虚像が目の前で暴れる。 『あの子達を助けるには、もう私が死ぬしかないんだから!『だ…から、あ、あり』『うるさい! 黙って!ちょっと黙って!お願いだから少し気持『アンタ、こんなトコで女の子に押し倒されて、何やってる訳?』『アンタ……どうして……?』ゃーっ!つっかまえたわよ私の勝利条件! わは『ん…』『だから今度は、みんなを守りたい』『べあっ』『べっ、別に男女って書いてあ『ごめんごめん、止める間もなく始めちゃうわよ』チのは母のアドレスが登『アンタの中にはそれぐらい大きなものがあ『ふにゃー』『あいよー。言っておくけどこれは貸しだかんね』どういうつも『ただし、今度は一人じゃない』『アンタと私は、同じ道を進んでいる。その事を忘れんじゃないわよ』『私これ訳したくない』あああ!!アンタこんな所で何『任せて』『初めて勝てたけど……思ったよりも虚しいわね、これ』 長い長い回想のなか、自然と笑みがこぼれる。 そして、 上条は固まった。 花火の音が遠く感じられる。 赤、青、緑、黄、さまざまな色で周囲が点滅する。 彼女は、赤子を抱き、微笑みかけていた。 それだけの光景だった。 しかし、それでも彼はたったひとつの事実を思い知った。 上条当麻はもう 御坂美琴なしには 生きられない。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/育児日記
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド 止まらない気持ち うららかな土曜日の午後。 ここ学園都市で暮らす学生達にとっては、日頃の勉強や能力開発から離れて自由に羽を伸ばせる時間である。 気の置けない友人との語らい、普段できないようなやや羽目を外した遊び、どのような過ごし方にせよ彼らにとって心沸き立つ時間であることは間違いない。 それは誰にでも平等に訪れる時間のはずであった、のだが。 「うー、なんでアイツに会えないのよー」 彼女、御坂美琴に関してはやや様子が違うようである。 その日朝早くから出かけていた美琴は、昼前にふらふらっと常盤台中学学生寮の自室に戻ってくると、けだるそうにベッドに倒れ込みそのまま枕に顔を埋めた。 「あの馬鹿、どこ行ったのよー」 美琴はずっと上条当麻を捜していたのだ。 ずっと、そう、ずっと。 正確には月曜日から一週間。 一週間、ずっと美琴は上条を捜しているのだ。 いつもの公園、上条がよく利用するスーパー、コンビニ。 昨日までは放課後になるたびに、そして今日は朝から、心当たりを手当たり次第捜しているのだが上条の姿はどこにもなかった。 会えなくなった当初、美琴は上条がまたやっかいごとに巻き込まれて学園都市を離れているのではないかと疑った。 しかし美琴の友人でかつ上条の友人の義妹でもある土御門舞夏に聞くところによると、上条は学園都市には普通にいるらしいのだ。 ではなぜ、美琴は上条に会えないのか。 まったくわからない。 会いたい人に会えない、しかもその理由すらもわからない、そういうわけで現在の美琴の機嫌はすこぶる悪い。 いや、悪いと言うよりむしろ、 「約束したじゃない、私の言うことなんでも聞いてくれるって。会えないんじゃそんな約束してたって何の意味もないじゃない。バカ、バカ! 当麻のバカバカバカバカ!!」 最悪の部類に入るようだ。 しかも、 「先週まで約束しなくたっていつでも会えたのに。どうして急に会えなくなったの? もしかしてアイツ、私に会うのが嫌になったの? 会えば一日中引っ張り回すから? だから私に会わないようにしてるの? 私、アイツに避けられてるの!? 絶交!? 三行半!?」 ネガティブ思考まで加わって最悪中の最悪の精神状態のようである。 「そ、そんなこと、ないわ、よ、ね……」 ゆっくりとベッドから起き上がった美琴は緩慢な動作で椅子に座ると机に向かった。 そして机上のノートパソコンを起動させると、そこに一枚のディスクを入れた。 やがてパソコンはディスク内の映像をモニターに映し始める。 その映像を見ながら頬を赤らめ、ほうっと静かに息を吐く美琴。 モニターに映し出されていたのは入院中の美琴と上条の姿だった。 なぜそんな映像があるのだろうか。 実は入院中の美琴の様子は、病院内の監視カメラで常に録画されていたのだ。 何しろ彼女は学園都市でも貴重なレベル5。 しかも彼女には妹達の件もあり、一方通行と並んで特にその存在は貴重だ。 それにいつも部屋を使っている上条に至っては、その能力はある意味世界の宝である。 そんな学園都市にとっての重要人物である彼らに万が一のことがあってはならない。 そういう理由で入院中の美琴と上条の様子は極めてプライバシーに関わることを除いてほぼ全て録画されていた。 もちろんその映像は二人が退院すると同時に破棄されるはずだった。 だが、その話を聞きつけた美琴がプライバシー侵害で訴える、と病院の上層部に掛け合い、事を穏便に済ませる条件と称して自分と上条の映像を全て光ディスクに収めて持ち帰ってきたのだ。 今ではそのディスクは入院中の思い出と共に美琴の宝物になっている。 特にこの一週間、「上条当麻欠乏症」による不安で押しつぶされそうな美琴の心を唯一支えているのがディスク内の映像なのだ。 ディスクには美琴と上条が病院に来てから退院するまでの全映像が収められている。 映像の中から、美琴は自分たちが病院に入院したときの物を見始めた。 一ヶ月前の戦いの際、上条をかばって重傷を負った美琴は、上条に抱きかかえられて病院にやってきた。 「なあ、カエル先生、カエル先生はどこだよ! コイツを、御坂を助けてくれ!」 「か、上条君? 何があったんだい? そ、その子は一体?」 重傷の上条は見慣れている病院のスタッフも、さすがに涙や鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした上条や、そんな彼が連れてくる重傷の女の子には驚き戸惑っていた。 「んなことはどうでもいいから、先生呼んでくれよ! 御坂が、御坂が死んじまう!!」 要領を得ないスタッフの態度に上条が怒鳴っていると、病院の奥からバタバタと慌てて冥土帰しが走ってきた。 上条は美琴を担架に乗せると、動かない体を引きずりながら冥土帰しの側までやってきて土下座した。 「先生、頼む! アイツを、御坂を助けてやってくれ! アイツは女の子なのに……グスッ……俺をかばって……ヒクッ……怪我して、大変で! 死ぬかもしれなくて! だから、なんでもするから、アイツを、アイツを!!」 しゃくり上げながら話す上条に冥土帰しはできるだけゆっくりとした口調で話しかけた。 「わかった、彼女は僕が責任を持って治してみせるよ。だから君も早く治療するんだ。君の怪我だって間違いなく重傷なんだよ」 「だから、俺なんかどうでもいいから!!」 「彼女は医者として絶対に僕が治す。いいから君は黙って僕の言うことに従うんだ」 「…………!」 上条を一括して黙らせた冥土帰しは、上条の肩をぽんと叩くと美琴が入れられた手術室に入っていく。 上条は流れる涙を拭おうともせず、黙って自分も担架に乗せられた。 「アイツって結構泣き虫なんだ。私のために、だから、あんなに泣いてくれたの、かな。だったら、いいな……」 入院初日の映像を見終わった美琴は画面を次の映像、入院し、部屋で眠り続けている自分とそれをひたすら見舞い続ける上条の映像に切り替えた。 それはこれと言って変化のない映像ではあったが、この映像の中の上条の瞳は他の誰でもない、自分だけを映している。 そう思うと美琴の心はこそばゆいような恥ずかしいような、そんな想いで満たされるのだ。 そして最後に切り替えた自分が目覚めたときの映像。 もう何度も、飽きるほど繰り返し見たシーンではあるものの、上条の独白を聞きその様子を見た美琴は顔を真っ赤にしていた。 美琴は思う、よく自分はあの瞬間、体内電流の漏電をしなかったものだと。 そして誉めたいとも思った、感激のあまり場を茶化したりせずに上条の独白を最後まで聞いた自分を。 その我慢のおかげで今の自分には上条を引っ張り回す大義名分ができたのだから。 いつもならここまで見れば美琴の心は落ち着いているはずだった。 だが今日の美琴の心は晴れなかった。 確かにあの時の嬉しさや心の満足感を思い出すことはできるのだが、その気持ちを覆い尽くす感情に心が捕らわれてしまっているのだ。 嫌われてしまったのではないか。 恋を知る者なら誰もが持つような他愛もないネガティブな想いが心に落とした一滴の黒いシミ。 だがそのシミはどんどん広がって美琴の心を蝕み始めていた。 会いたい。 会って話がしたい。 彼の気持ちが聞きたい。 自分を嫌わないで欲しい。 願わくば、自分の想いが通じて欲しい。 もはやシミは過去の楽しい思い出程度ではどうしようもできない状態になっていた。 「会いたいよ、会いたいよ、とうまぁ……」 美琴は机に突っ伏して静かに涙を流した。 「……あれ? 今は?」 がばっと顔を上げた美琴は泣きはらした目をこすりながら周りを見回した。 窓から見える景色は既に夕日に照らされており、完全下校時刻、一日の終わりが近いことを示していた。 どうやら眠ってしまったらしい。 「あちゃー、午後からもアイツを捜さないといけなかったのに」 とりあえず顔を洗おうと洗面所に向かった美琴は、携帯が着信を知らせて鳴っていることに気づいた。 「アイツからってことはないわよね、この一週間まったく携帯に出ないんだから。ん? 初春さん?」 発信者は初春飾利だった。 ジャッジメントの活動中にどうしたんだろう、もしかしたら白井黒子に何かあったのかも、そう思いながら美琴は電話に出た。 電話口の初春はやや慌てたような感じだった。 『御坂さん? 良かった、やっと繋がりました。何度もかけてたんですよ』 「ごめん、ちょっと寝ちゃってて」 『お昼寝、じゃないですよね……最近疲れてるんじゃないんですか? ちゃんと寝てますか?』 「そ、そんな心配するほどのことじゃないわよ。ところでどうしたの? 何度も連絡くれたって言ってたけど」 『あ、それ、なんですけど。それが、その』 急に口ごもった初春に美琴は訝しげな表情を浮かべた。 「どうしたの? 私に用事だったんでしょ」 『は、はい。そうなんですけど』 「何よ、はっきりしないわね。そんな遠慮するような仲じゃないでしょ、私たち」 『そう、そうですね、はっきりした方がいいですよね。あの、御坂さん。御坂さんの彼氏、さんのことについてなんですけど。ちょっと、気になることが』 「え、アイツのことが何かわかったの!? あれ? ちょっと待って初春さん、念のために聞くんだけどか、彼氏って誰のこと?」 美琴は、はやる気持ちを抑えて初春に尋ねた。 美琴の頭には自分の彼氏と言えば上条のことしかないのだが周りがそう認識しているとは限らない。 それに自分が上条を捜していることを美琴は誰にも言っていない。 よって誤解を防ぐためにも初春の言うその「彼氏」とは誰なのか確認しておく必要があると美琴は判断したのだ。 『御坂さんが入院してたときにずっと付き添ってくれてたあのツンツン頭の人です。彼氏なんですよね?』 「い、いや、アイツはその、彼氏っていう訳じゃないんだけど、その」 『違うんですか?』 「えっと、その、付き合っては……まだ、ない」 『あれ? 彼氏じゃないんなら、じゃあ別にいいのか、な?』 拍子抜けしたような初春の声を聞いた美琴はあわてて電話にかじりついた。 初春の態度からこのまま話が終わりそうな予感がしたからだ。 「ちょ、ちょっと待って、アイツがいったいどうしたの? お願い、教えて初春さん!」 『は、はい、わかりました。じゃあ今から、ジャッジメント177支部に来てもらえますか?』 「わかった、すぐ行くから待ってて!」 「御坂さん……」 電話を切ってため息をつく初春。 二人はまだ恋人同士にはなっていないとのことだが、今の美琴の態度から上条に対する想いの強さはよくわかった。 だからため息が出る。 真実をはっきりさせることは大切だが時としてそれが正解ではない場合もあるからだ。 美琴に辛い思いをさせるかもしれない。 でも大丈夫、だと信じたい。 面識はないし自分もチラとしか見ていないが上条が美琴を見舞っている時の目、あれは大切な人を真摯に想う目だったと思う。 彼の心の大切な部分に美琴は確かにいる。 多少の問題は起こるかもしれないが二人ならきっと大丈夫だと、初春はそう信じたかった。 「大丈夫ですよね」 美琴を出迎える用意をしながらジャッジメントの監視カメラの映像を見る初春。 そこにはとあるファミレスの中で女子高生といっしょにいる上条の姿があった。 一時間後。 「…………」 「あ、あの、御坂さん、これは、その、えと」 街路樹の影に隠れて呆然とファミレスを見つめる美琴と何か言わなければと必死で言葉を探す初春の姿があった。 ファミレスの窓側に座っている上条は相変わらず同じ学校の人と思われる女子高生と談笑していた。 いや、正確には談笑しているように美琴には見えた。 実際には声は聞こえないのだからどういう話をしているのかはわからないのだ。 だが美琴には目の前の映像だけでショックだった。 しかもここに来る前、177支部でこのファミレスの一週間の映像を見せてもらっていた。 そこには毎日このファミレスを、今いっしょにいる女子高生と共に訪れる上条の姿があった。 今日と違ってすぐにこのファミレスを離れてはいたものの、たしかに上条は毎日この女子高生と会っていたことになる。 自分が必死で上条に会いたがっていた間、彼は自分の知らない女性と過ごしていた。 ならば自分はいったい何をやっていたのだろうか。 上条の独白を聞き、退院後は毎日のように関わりを持ち、週末もいっしょに過ごした。 その中で少しは想いが通じ合ったと思っていた。 そしていつかは本当に通じ合えると期待していた。 でもそれは自分の思い過ごしだった。 儚い幻、幻想だった。 なぜなら上条は自分と会うことよりも今いっしょにいる女性と共にいることを選んだのだから。 バカみたい。 ううん、みたいじゃない。 私はバカだ。 とんだ道化だ。 一人で勝手にはしゃいで勝手に落ち込んで。 結局想う相手は自分のことなどまるで見ていない。 そもそもいっしょに過ごしていたのだって上条からすれば約束から派生した義務感で付き合っていただけと考えた方が自然だ。 本当は嫌なのに無理矢理。 だって、上条は自分を見てくれていないのだから。 見ていない、いや、既に、嫌われているのかもしれない。 つーと一筋の涙が美琴の頬を伝った。 でも、どうしてだろう。 それでも、彼に会いたい自分がいる。 それでも、彼と話をしたい自分がいる。 会って何をする? 何を話す? わからない。 でも会いたい。 なぜ? 決まっている。 相手がどう思っていようと関係ない。 私の心は決まっているから。 そう。 私、御坂美琴は、上条当麻が――。 美琴は涙を拭うと、強い決意の光を瞳に宿し初春を見た。 「ありがとう、初春さん。あの馬鹿のこと教えてくれて」 「御坂さん」 「このままじゃ終われないもんね。ちゃんとあの馬鹿と話しないと」 美琴はキッとファミレスの上条をにらみつけると、ポケットから携帯を取り出し上条の番号を呼び出した。 上条はあっさりと電話に出た。 『あ、御坂! ちょうど良かった。話があってさ』 「ふーん、そう。私もアンタに用があるの。でも電話じゃなんだから直接会わない? すぐ表に出てきてよ。待ってるから」 『表に出てくるって、お前俺がどこにいるか知らないのにどうや――』 「知ってるわよ。いいからさっさと出てきなさい」 美琴は携帯をポケットにしまうと、静かに歩き出した。 一方、首をかしげながらファミレスから出てきた上条はきょろきょろと美琴の姿を捜していた。 「待ってるとか俺がどこにいるか知ってるとか、御坂の奴、いったい何を?」 「久しぶりね」 「うわ! お、驚かせるなよ」 突然背後から声をかけられた上条はばっと後ろを振り向いた。 そこには腕を組んで明らかに不機嫌な顔をした美琴が立っていた。 美琴は上条を見てふんと鼻を鳴らした。 「いきなり後ろから声をかけただけよ。電撃使わなかっただけマシと思ってちょうだい」 「……比較対象がめちゃくちゃだろ」 「それよりも、久しぶりに会ったんだから何か言うことは? なにしろ、一週間、ぶりなんだから」 「そ、そうだな。ほんと、久しぶり。元気そうだな」 「もうちょっと気の利いたこと言えないのかしら……そうね、元気と言えばそうなるのかしら。でも、人を一週間無視し続けて女の人と毎日デートしてたどこかの誰かさんに比べたらまだまだよ」 「ん? それって誰のことだ? まさか……俺のことか?」 「俺のことか、ですって?」 心底不思議そうな顔をした上条に、非常に細い美琴の堪忍袋の緒はあっさりと切れた。 美琴は上条といっしょにファミレスから出てきた、色気はないもののやたらとスタイルのいい美人を指さした。 「あ、あ、あ……アンタ以外に誰がいるってーのよ! 女だってそこにいるじゃない! いったいそいつ誰よ!」 「だ、誰って、こいつは俺のクラスメートで吹寄制理って言うんだけど。後、初対面の人間を指さすのは失礼だぞ」 「うるさい! でも吹寄? どっかで聞いたことあるわね。それはともかく、どうしてアンタはそのクラスメートと毎日毎日毎日毎日デートしてんのよ! 人が散々アンタを捜してるときに、アンタ何やってんのよ!」 「え、えと、俺、吹寄とデートなんてした覚えはないんだが。なあ」 困った顔をした上条は不機嫌そうに隣に立つ女性、吹寄制理を見た。 吹寄は上条に答えることなく美琴に近づき、軽く会釈した。 「はじめまして。あたしは吹寄制理、そこにいる上条当麻のクラスメートよ」 「は、はじめまして。御坂美琴、です。あの、何か?」 吹寄につられて挨拶を返した美琴だが、当の吹寄は美琴の全身をなめ回すようにじろじろと見ていた。 「ふーん、なるほど」 「ですから、あの」 「これは確かに土下座する価値はありそうね」 「土下座?」 一通り美琴を観察したらしい吹寄は美琴の質問にはまったく答えず、不機嫌そうな表情を変えることなく話を続けた。 「御坂さん、初対面の人にいきなりこんなこと言うのはなんだけど、あなた勘違いしてるわ」 「勘違い?」 「そう、あたしと上条はデートなんてしたことはないわ。というよりあたしと上条の間には色恋沙汰に類する感情そのものが存在しない。あたしはこの一週間、担任に頼まれて上条の勉強を見ていただけ。詳しくは上条に聞けばいいけどとにかく、そういうことだから安心して」 「は、はあ」 「じゃあ、さよなら。ごゆっくり」 結局言いたいことを一通り言うと、美琴の言葉を無視して吹寄はすたすたと歩き出した。 「は、はい、さようなら」 あっけにとられた美琴は呆然と吹寄を見送った。 「あ、そうだ。上条!」 ファミレスから離れていこうとした吹寄は突然、上条の方を向いて大声を出した。 「は、はい!」 その声に上条は半ば反射的に体を硬くした、その様子を美琴が面白くなさそうに見ていることも知らずに。 「先生の頼みだから今回は付き合ったけど、二度と貴様に付き合うのはごめん被るわよ。ありもしない誤解をされたくないし、貴様だって誤解なんてされたくないでしょう。自分の不始末はこれからは自分でなんとかして。少なくともあたしを頼るのは止めてちょうだい。じゃあ、コーヒーごちそうさま」 「あ、ああ。こちらこそありがとう。本当に助かった」 今度こそ吹寄はファミレスの前から立ち去っていった。 「あ、あの、御坂」 上条は吹寄を見送ると、おそるおそる美琴に声をかけた。 しかし美琴はなんの返事も返さない。 ただ下を向いてゆっくりと深呼吸を繰り返すのみ。 業を煮やした上条が再び声をかけようとしたその時、美琴はばっと顔を上げた。 「質問に、答えてくれる?」 「えっと、それも例の約束か?」 「違うわ、それにあんな約束、もうどうでもいい。反故でいいわよ。でも、質問はする。約束とか、そんなの関係なく、アンタの意志で教えてほしい」 「……わかった、答えられる範囲でなら」 「まず、何がどうなってるのか教えて。状況がわからないわ」 上条は自分の置かれていた状況をかいつまんで美琴に話した。 聞き終えた美琴は盛大なため息をついた。 「何? 結局またこの一週間、補習やら追試で大変だったってこと?」 「いや、正確には違うぞ。補習や追試はまた別の機会だ。で、今回は補習と追試だけでは単位を補いきれないので課題の提出を課されたのだ、しかもその提出期限は来週頭。さらに言うなら上条さんの頭ではとてもじゃないが処理できる量ではなかった。見てくれ!」 胸を張った上条は何がそんなに嬉しいのか鞄から次々とレポートやらノートやらを取り出していく。 美琴は上条の境遇にあきれかえりながらも彼の激闘の跡を眺めた。 多い。 天才である美琴からすれば大した量ではないが、お世辞にも優秀とは言えない上条にとっては非常に多い量の課題だ。 これだけの課題が補習や追試に加えて必要になるとは、と美琴はさすがに上条が気の毒になってきた。 確かに誰かの手伝いが必要だった、というのも理解できる。 「それから吹寄に手伝いを頼んだのは担任の小萌先生なんだ。俺の課題の進行状況を聞いて誰か適当な人を、と」 「で、あの巨乳の美人に白羽の矢が立ったわけ?」 上条はうんうんとうなずいた。 「クラスの連中の推薦もある、なんでも俺のフラグ体質が通用しないから安心らしい。御坂も見てわかったろ? アイツと俺の相性の悪さ」 美琴は素直に上条の言葉を信じられた。 なぜだろうか、恋する女の直感みたいなもので吹寄からは上条に対する「想い」が欠片も感じられなかったからだ。 確かに彼女なら上条とずっといっしょでも何も起こらない、そう思えた。 「それで月曜から毎日ファミレスの前で待ち合わせて図書館で勉強してたんだ。安心だって言う割にはクラスの連中、色々邪魔してくるからさ、学校ではとても勉強にならなかったんだ」 「図書館、確かにそれじゃアンタを見つけられるわけないわね。アンタに一番似つかわしくない場所だもの」 「ほっとけ。で、今日は図書館が休みだったから仕方なくファミレスで勉強してたんだ。そんでもって財布が非常に軽い上条さんの精一杯のお礼としてコーヒーをごちそうした。だから、その、俺はこの一週間、誰かとデートとか、浮かれたことは何一つしてない。それだけは信じてくれ」 「連絡が一切付かなかったのは?」 「どこかの訳のわからない連中から連絡があったりしてほしくないから電源を切っていた」 「なるほどね」 課題を終えようと頑張れば頑張るほど邪魔が入る。 上条の不幸体質を考えれば十分考えられることだった。 「だからといって御坂にまったく連絡をしなかったのは謝る。その、ずっと捜してくれてたみたいだし。とにかくこれで全部だ」 「そう」 安心からだろうか、美琴は体中から力が抜けるのを感じていた。 上条の言葉に嘘はないだろう、そもそもこういうことで嘘をつく人間ではないし辻褄も合っている。 締め切りが迫る課題を処理するために一週間カンヅメ状態で勉強してその間誰とも連絡を取れない状態にしていた、しかもその手伝いの女性とも私的な交流はない。 なんてことはない、タネを明かせばその程度のこと。 結局自分が感じていた心配や不安はただの杞憂だったようだ。 でも、と思う。 それでもいくつかの疑問が晴れない。 いや、疑問というより上条が肝心なことを隠しているような気がするのだ。 美琴は考えた、上条が隠すような理由を。 そして一つの仮説が浮かんだ。 「え、でも、それじゃ」 その仮説が事実ならあまりにも自分は無様ではないか。 無様で滑稽。 だがあくまでそれは美琴の脳内での仮説、確認しなければどうってことはない。 上条だってせっかく隠してくれているのだからその厚意に甘えることだって一つの選択だ。 それでも美琴は確認する道を選んだ、仮説を、上条の気持ちを確かめたかったから。 「ねえ、そもそもその課題っていつ出されたの?」 「え。い、いつって」 「答えて。ううん、答えなさい」 「……退院して、すぐ」 「やっぱり。一週間じゃなくて一ヶ月の量だった訳ね」 上条の答えを無理矢理聞き出した美琴は自分の仮説が正しいことを実感した。 しかし仮説をさらに強固にするために質問を重ねた。 「じゃあどうして私に相談しなかったの? 私の成績、知ってるわよね。あの程度の問題、私なら訳なく解けるわよ」 「そ、そりゃやっぱり中学生に勉強を教えてもらう高校生ってのも情けないと思うし」 「本当に?」 「…………」 露骨に目をそらした上条の無言の答え。 言外に嘘を言っている、と言わんばかりの態度だ。 「吹寄さんが言っていた土下座ってどういう意味? もしかして今日は図書館が休みだから明日にしようって言われたのを、今日課題を終えるために手伝ってもらいたいから土下座して頼み込んだ。違う?」 「…………」 やはりこの無言も肯定という意味だろう。 「最後。アンタが私にあるっていう用事は?」 「……あ、明日の予定、聞こうと思って。今週全然会ってないし」 美琴の仮説は確信に変わった。 ――アンタ、私のために、こんなことしてたんだ。 「はは、やっぱり、やっぱりそうなんだ……」 少しずつ、少しずつ美琴の視界が歪みだした。 「何やってんのよ、私は……」 しゃくり上げながら美琴は手の甲で涙を拭った。 だが涙は次から次に溢れ出しとどまるところを知らなかった。 美琴は理解した。 今の上条の境遇を引き起こした最大の原因は自分にある、と。 上条の出席、および成績に関しては彼の不幸が呼んだことかもしれないが、課題をまったく済ませられなかったのはひとえに自分のせいである。 退院して以来、放課後は毎日上条を引っ張り回した。 週末など一日中付き合わせた。 美琴と違い完全自活の上条がそんなに遊び回れば、学生として通常勉強する時間を取るだけで精一杯のはずだ。 当然課題に手を付ける時間などあるはずもない。 結局締め切り間近になり途方に暮れる羽目になる。 だが美琴に責任を感じさせないために上条は自分で問題を抱え込むことにした。 しかも自分との週末の約束を守るために土下座までして今日中に課題を終えようとしてくれた。 上条はひたすら美琴のことを考えてくれている。 そこに余計な感情はない。 それに引き替え自分の態度はどうだろう。 上条のことを信じることもせず己の感情のみを優先させ、勝手に傷つき、勝手に嘆き、勝手に怒った。 美琴は自分自身が情けなかった。 悔しくてたまらなかった。 でも。 嬉しかった。 上条の自分に向けてくれるやさしさが。 上条がずっと自分のことを気にかけてくれていたことが。 悔しさや悲しさ、嬉しさ、喜び、様々な感情がない交ぜになって次から次に涙という形で美琴からあふれてきた。 もう止まらない。 止めることなどできない。 ああ、私は本当にコイツが、上条当麻が、好きなんだ。 一方の上条は美琴とは別のベクトルでテンパっていた。 色々と質問してきたかと思うと、美琴が急に泣き出したのだから。 女性への接し方という分野では幼稚園児以下のスキルしか持ち合わせていない上条。 美琴の気持ちなどわかろうはずもなく、ただおろおろするばかりだった。 仕方ないので上条は目を閉じ、何も考えないことにした。 無心で自分の本能がしたいようにすることにしたのだ。 そして、本能は、ぎゅっと美琴を抱きしめることを選んだ。 「あ、あの。これは体が勝手に……」 最低だな俺、と思った上条は、電撃が来ることを覚悟しながら美琴に声をかけた。 だが上条の期待に反して美琴は何もしない。 いや、美琴はちゃんと上条の行動に反応していた。 上条の体を抱きしめる、という反応を。 結果として上条のテンパり具合は過去最高をあっさりと更新した。 「どうしたんでしょうか! これは上条さん大ピンチですよ! このままでは犯罪犯しますよ、大変ですよ、父さん母さん! 御坂さんがやたらかわいいんですよ! それにふにゃっとしてなんか気持ちよくて、いいにおいまでして女の子の体ってこうなんだって、ああ何考えてるんだ俺! 理性だ理性、水平リーベ僕の船。3.14159265358979323846264338……」 美琴に聞こえないよう小声で呟く上条。 その内容といい、テンパっているようで妙なところは結構冷静である。 「不幸なのか、でも結構幸せっぽい気もするけど、どうなんだ、俺!」 結局上条の葛藤は美琴が泣きやむまで続くことになるのだった。 「あのさ、まだ質問あったんだけど。私に週末付き合わされるのって迷惑?」 「別に。というかこういう普通の学生らしいことしたことないから結構楽しいし、できたらこれからも誘ってほしい」 「そう。良かった……」 美琴は再び上条の胸に頭を預け、上条をさらにどぎまぎさせるのだった。 上条は安心する。 美琴の機嫌が直ったこと、誤解が解けたことに。 だが上条は知らない。 美琴が反故にすると言ったのはあの日の約束だけではないことを。 上条の言葉を待つと決めたあの日の「誓い」すら反故にする、という意味をも持つということに。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/育児日記 大冒険 夢が溢れるオモチャコーナー。 上条は心を鬼にしていた。 「うちに大量にあるだろ」 「で、でもこのウィンクしてるのはない!」 「右手上がるパターン、左手上がるパターンなどなど、全245種のすべてのゲコ太集める気かよ?」 渋々美琴はもう一度ゲコ太に抱きつき、棚に戻す。 上条はウィンクゲコ太をじーっと見た。 (……うらやましい) 「ねぇ」 「すんません!! そんなつもりはないんすよ!!」 「なにが?」 「あ、いや、どうした?」 見ると、ゲコ太モデルの車がある。 赤ちゃんが座れるようにできていて、ハンドルはあるが動く飾り。 後方についている棒を押して動かす、ベビーカーだ。 きっとあの子は喜ぶだろうし。 「これ、買ったら、ダメかな?」 彼女はいうまでもない。 「はぁ、仕方ないな。いいでしょう」 「やった!!」 「はいはい、かわいい笑顔ですこと。インデックスより喜んでんじゃねえか? さて、そろそろあの食いしん坊を迎えにいくか」 美琴はうなずくと、レジに向かう。 浜面に電話すりゃいいかな? 『な、なんだ? 大将?』 「いや、そろそろ迎えに行こうかと思ってさ」 『ま、待て!! 困る!!』 「へ?」 『い、いやぁ……そ、そうだ!! まだ服の買い物とかして2人でいろよ!! あの子はまだ遊びに夢中でさぁ!! 』 「そっか///// わかった。よろしくな」 ちょうど美琴が会計を終えて戻ってきた。 「どうしたの?」 「インデックスはまだ遊びたりないんだと。仕方ないし、季節の変わり目でバーゲンだし、 秋物の服でも見にいこうか」 「そっか、早く見せてあげたいけど、楽しみはとっておいてもいいよね」 ちょっと寂しいが、2人ともデートが続けられて、少し嬉しいのだった。 「ど、どう、かな?」 茶色のワンピースを着た天使が立っていた。 上条は、平静を装い、顔を真っ赤にしながら応える。 「あぁ、驚いた。似合ってるよ」 「ホント!!?」 顔をほころばせる美琴の前に、 ひび割れた理性を突貫工事で修復する上条さん。 彼は考えていた。 (そもそも美人の美琴はなんでも似合うに決まってんじゃねえか!!) 「ね、ねえ、この服の上に着るなら、どっちが、いいかな?」 「ん? えーっと……えー…あー……えー………っと……」 「ど、どうかなってなんで片づけちゃうの!!?」 「どちらも小学生ものじゃん!! ゲコ太が可愛かったわい!!」 「え!!? だから持ってきたのに!!」 「せっかくの大人の魅力が台無しだよ!!」 「えー、じゃあ、また今度でいいや」 「ほんとにも~……っお? ベビー服か」 「かわいいわね!!」 「これなんかどうだ!!?」 「え? おさるさん? かわいい!! でも、動きづらそう」 「お、見た目の可愛さ優先でインデックスが窮屈になったら意味ねーな」 「これなんかどう? ひらひらがいっぱいついたスカート!!」 「水色でアイツの銀髪も映えそうだなぁ」 「かわいいでしょ」 「が、敢えてこのボーイッシュルックをオレは薦めてみる!!」 「うぅ、ベレー帽ってところが憎いわ!!」 「……」「……」 一方通行にTELTEL。 『よ、よォ、三下。元気か』 「? さっき会っただろ?」 『そ、そういやァ、そうだったな。元気なのはいいことだよな』 「気色悪い。キャラが大崩壊時代ですよ。そろそろ迎えに行っていいか?」 『ダメだ!!』 「へ?」 『ほ、ほら、せっかく2人きりなンだから、もう少し楽しめ。夕飯の買い物でもしたらどうだ? 時間はこっちから連絡するからよ!!』 「え? お、おい『ガチャ』あら? 切れた」 「?」 「まだ時間かかるんだと。……夕飯でも買いにいくか」 「……そうね、そうしますか」 自分たちといるよりも、インデックスはみんなと遊ぶほうが楽しいのだろうか? ちょっとジェラシー。 「「うおっしゃぁぁぁあああ!!卵ゲットぉぉぉおおおおお!!」」 タイムセール。 それは戦場である。 買い物かごを二人で持って、キャッキャウフフな展開を考えた我々のにやにやを返してもらいたい。 「ふぅ、なかなかの収穫だな」 「今晩は腕がなるわね♪」 「なんの予定?」 「オムレツかな?」 「楽しみですなー」 「あ、ミルクも買っとかないと」 「そうだな。そういやぁ、そろそろ離乳食にしなきゃなのか?」 「どうなんだろう? ママに聞いとく」 「おう、ありがとな」 「……」「……」 「ねぇ、もう迎えに行っていいんじゃない?」 「そうすっか」 いつのまにか空は夕焼けに染まっていた。 帰路につく上条と美琴の手には大量の荷物がぶら下がっている。 「持とうか?」 「ううん、大丈夫。……インデックス、喜んでくれるかな?」 「確かに喜んでくれなかったらショック……? おや?」 上条達は公園に入り、固まった。 人数が多い。 インデックス、打ち止め、フレメア、フロイライン、一方通行、浜面という最初の面子のほかに垣根とドレス姿の見慣れない女性がいる。 あと、垣根って白くなかったっけ? 彼らが纏う空気が重い。 フロイラインの腕の中で彼女はバタバタと垣根に手を伸ばす。 確実にそれが空気を変えた。 虚を突かれた表情をした垣根は少しして微笑む。 垣根は屈伸の要領で膝を曲げると、インデックスの頭を撫でた。 「今日はもう遅くなりました。また、今度遊びましょう」 微笑みかける垣根に、インデックスは不満だったようだが、しぶしぶうなずく。 垣根は立ち上がると、再び一方通行と浜面を一瞥したが、 そのままなにも言わずに立ち去った。 上条たちが知らない女性を連れて。 「ばいばい!! カブトムシさん!! ってミサカはミサカは元気にあいさつ!!」 「大体ドレスお姉ちゃんもまたな!!」 「さようなら」 ちびたちの手を振る姿を見て、 ようやく上条と美琴も互いに笑顔を浮かべ、彼らの方に歩みを進めた。 一方通行が家のドアの前に立ったとき、もう空は暗くなっていた。 背中では打ち止めが眠っている。 なぜ子供はエネルギーを0にするまで遊ぶのだろう。 一方通行はあの後の事を思い出していた。 浜面が上条に対し成果を尋ねると、アノヤロウ 「いやぁ、やっぱりインデックスがいないと寂しいな」 などとほざいた。 こちらの気もしらないで。 当然ボコボコにして帰路に着く。 上条は思い出すだけでイライラするだらしない笑顔だった。 うんざりしながら家のドアを開けると、またため息がもれる。 家中がキラッキラに輝いていた。 廊下に自分の顔が反射する。 チリひとつ落ちていない。 あの性悪も居場所がないのか、ソファーの上で体育座りしていた。 (……今度はなにしでかしやがった?) 犯人はすぐ見当がついた。 始末書ものの失敗をすると、家を片付ける癖がある家主だろう。 ただ、これほど徹底的なのは珍しい。 相当落ち込んでいる証拠だ。 取り敢えず、打ち止めをベッドに投げようと思ったとき、 リビングに入る影があった。 家主ではなく、その親友である。 が、彼女の顔色も悪い。 片方の眉を上げ、最強はその理由を問う。 その女性は動揺を隠さず理由を伝えた。 「……愛穂が……プロポーズされたって」 一方通行の演算能力を大幅に上回る事態なのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/育児日記
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小ネタ ゆたんぽ とある喫茶にて。「最近、寒くて寝付けないのよね」だから冬は嫌いなのよ、と美琴は頬を膨らます。そんな美琴をも可愛いと思ってしまう上条は、美琴の膨れたほっぺをつんつんと突く。「ちょっと、やめてよ!なに公衆の面前でやってんのよ」「わりぃわりぃ。あまりに美琴さんの膨れっ面が可愛いもんで、上条さん的には突っつきたくなったわけですよ」上条がこっ恥ずかしい事を言ったりやったりして、美琴がそれに照れて赤くなる。この2人における、おきまりのパターンであるが、人はそれをバカップルと呼ぶ。今ではあの白井でさえ、呆れを通り越して関与しなくなったほどだ。「で、なんだ。美琴は夜寒くて寝付けないと?」「そうなのよ。入った途端の布団って冷たいし、じっとしてると暖かくはなるけど動くとまた冷たくなって……もう嫌」溜息と共に肩を落とす。上条としてはそれくらい我慢したらなんとかなるだろ、と言いたいところではあるがそんな事を言えばどうなるかは分かったものではない。「常盤台の寮とか温度管理はすごそうだけどな」「もちろんよ。何の苦もなく寝れるわ」「はぁ?お前今、寝付けないって言ったところじゃねぇか」「ばか。アンタのとこに……その、泊まったときの話よ」「あぁ、そういうことか」美琴は週に2度ほど、上条の部屋に泊まりに来る。インデックスが英国にかえってしまってから、1人で寂しいとか思っていた上条にとっては嬉しい事ではあった。しかし、戸主にも関わらずベッドは奪われ、『風呂じゃ死ぬ!』とか言い倒してようやく、同じ部屋の硬い床で寝る許可を得た。しぶしぶ床で寝てみると、毎回、小さい声で『意気地なし』とか言われることになる。―――女心は分かりません―――上条は怪訝な表情で美琴の背中を見ながら寝ることになっている。「お前……文句言うならわざわざ泊まらずに寮まで帰れよ」―――辛い思いまでして泊まっていくのは勝手だが、文句まで言われるとは―――上条はわりと本気で対策を考える。「エアコンは使わねぇぞ!電気代も馬鹿になんねぇし」「うっさいわね!分かってるわよ」「こたつで寝るわけにもいかんしなぁ……と、そうだ、美琴、今から買いもん行くぞ」上条は何かを思いついたかのように立ち上がり、美琴の手を引いて喫茶を出る。「なな、何よ、いきなり」「湯たんぽだよ湯たんぽ!」「ゆたぽん?」「違わないけど、違う!!」「これが先人たちの知恵の結晶!湯たんぽなのです!」上条と美琴はデパートの寝具コーナーに来ていた。最近、流行りらしく、いろいろな湯たんぽが置いてある。デザイン的にオシャレなものも多い。「さぁ、選べ!エアコンは付けない上条さんだが、湯たんぽなら買ってやろうっっ!!」「結構いろんなデザインあるし、迷っちゃうわね……っ!?」急に固まってしまった美琴の様子に、上条はその目線の先をたどる。「げっ」上条の顔が引きつる。そこにあったのはもちろん『ゲコ太ゆたんぽ』である。ご丁寧に小さな子供用としてに安全対策もばっちりの代物らしい。「美琴サン?」「当麻、分かってるわよね?」両目をキラキラキラキラァァッとさせた美琴が上条を見つめる。「ハイ、ワカッテオリマス………」上条は手に負えなくなった美琴に肩を落とし、店員さんを呼ぶ。「すいませーん。これ欲しいんですけど……」上条の声に反応した店員さんは高速安定ラインのような身のこなしでやってくると、近くの棚の引き出しを開け始める。「あー、お客様申し訳ございません。こちらの商品はただ今、品切れとなっておりまして、お取り寄せになるのですが………」「そうですか、どうしようかな」上条は美琴の様子を窺う。キラキラキラキラァァァッとしていた。―――無理だ。別のにしろなんて、言えねぇっ!!―――「取り寄せ、おねがいします」上条は店員さんに支持されたとおりに注文書を書き終え、結局何も買わうにデパートを後にした。夜。美琴はパジャマ姿で上条の寮にいる。お泊りです。「まったく、結局湯たんぽ買えなかったじゃねぇか」「ううううるさいっ!げ、ゲコ太が私を呼んでたのよ!」なんじゃそりゃ、と上条はコップに入ったお茶を飲むと、床に枕と毛布を準備する。「そろそろ寝るぞ」「はぁ、今日も寒い中寝るのか………」美琴はガックリと肩を落とすと、おそるおそる布団に入る。「湯たんぽ代わりに、上条さんが添い寝してあげましょうかー、なんて……」上条はよっこいしょ、と床に転がりながら冗談を飛ばし、毛布をかぶろうとした。ぐいっ、と驚くような力で襟元を引っ張られる。「添い寝、お願いするわ」「はいっ!?」「湯たんぽ代わり。ゲコ太が届くまで」そう言って美琴は上条をベッドに促す。―――め、目がすわってしまわれてますよぉぉっ―――抵抗むなしく、上条はベッドの中に引きづり込まれる。美琴は上条にも布団をかぶせると、思いっきり抱きつく。「あー、こりゃ暖かいわ。今夜はグッスリ眠れそうね」「上条さんは全く眠れそうにありませんけどね」「おやすみ、当麻」「聞く耳持たずかよっっ…………不幸だ」結局、抱きつかれたままの上条はろくに眠れないまま朝を迎え、美琴は今までにない快眠具合にご機嫌であった。後日談。上条宅に『ゲコ太ゆたんぽ』が届いて早一ヶ月。お子様センス全開の湯たんぽは開封されてはいるものの、使用された形跡が全くない。一ヶ月の間美琴が上条宅を訪れていないわけではない。むしろ、週に3回と頻度が増えたくらいだ。「おい、美琴っ。折角、買ったんだから湯たんぽ使って1人で寝ろよ」「そんなの無理!ゲコ太を足蹴にするなんて考えられないわ」湯たんぽは足元を暖める為に置いて使うもんだ、と上条が教えてから、美琴は頑なに使用を拒否する。「はぁ?じゃぁ、何でもいいから1人で寝てくれよ」「アンタは………私と寝るのはいや?」―――うっ!?―――上目使い攻撃に、上条の抵抗が弱くなっていく。「嫌じゃないですけど……なんていうか、ですね」「湯たんぽじゃ私1人しか暖かくないけど、添い寝してくれたら、2人とも暖かいでしょ?」「…………ふ、不幸だ?」―――もうわかりません―――上条の寝不足はまだ続きそうだ。